横尾忠則の自我自損?
「自画自賛」ではなく「自我自損」。『画』ではなく『我』。『賛』ではなく『損』なのだ。ゲスト・キュレーターとして自身の展覧会を企画した横尾忠則。彼は、エゴに固執すると損をする、という自画自賛をもじった造語でこの展覧会をくくりました。サブタイトルにも、THE END OF EGO と入っている。同一作家とは思えないほど大胆にスタイルを変化させてきた横尾さん。それは絶えざる自我の否定から生まれたのでしょうか。
自らの旧作に何のこだわりもなく手を加えて、新たな作品へと変貌させる試みがたくさん見られる。いや、むしろ極めて強いこだわりがあるからこそ、つねに新たな目で見直して作品の完成度をより高めようとしているのかもしれない。時間が経てば人は変わる。考え方も、ものの見方も変わる。変わらないことは、生きていないに等しい。だからすべてが現在進行形で終わりがない。言い方を変えれば、その時その時のベストがあり、その時のベストを追求するのが作家だという考え方。
そんなことを考えていたら、1970年の大阪万博の「せんい館」を思い出した。横尾さんがディレクションしたこのパビリオンでは建築用の足場がオブジェとして扱われていた。「え、まだ工事中⁉」という驚きはすごかった。建築途中を凍結して見せることは、未完成ならではの美しさの発見だった。完成が善だという常識への挑戦。そして完成の姿や万博終了後の撤去まで時間の経過を強く意識させる表現だった。どこか似ていませんか。
そんな特徴をありのままに展示する試みだから、この展覧会で観た作品が完成作なのかどうか、横尾さん自身にもわからないにちがいない。作家も鑑賞者も、今日のところはこの辺で、みたいな感じ。展示されている70点近くの作品を観ていくと、人間ってこれほど多方面に興味を持てるものなんだと感動する。しかも自分の作品(過去)を破損させてまで新たな表現を追求する執念に感服です。
横尾忠則 自我自損展
2019年9月14日(土)~12月22日(日)
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館
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