2018年8月14日 (火)

銅版画の奥深き世界

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 六甲アイランドの小磯良平記念美術館で、「浜口陽三と南桂子」展が開催されている。どちらもパリを中心に活躍し、国際的に高い評価を得たアーティストだ。浜口陽三はヨーロッパでもすたれていたメゾチントを復興させ、しかもカラーメゾチントという技法を発明した。暗闇でボーッと光る赤いサクランボのシリーズは、世界中から愛されている。

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 浜口はさまざまなサクランボ作品で有名だけれど、サクランボだけではなくテントウムシやアスパラガス、レモン、スイカなども描いている。それらを通して「静謐」という言葉の真の意味を感じ取りました。真っ暗闇にほのかな灯りのように浮かぶ赤いサクランボ。究極の美学です。身近にある小さなモノに宿る大きな存在感に圧倒されます。

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 南桂子は浜口のパートナーで、パリでも日本でもずっと一緒に制作活動を続けたけれど、その作風はまったく違う。お互いアーティスト同士で尊重しあっていたのでしょう。同じ銅版画でもエッティングやドライポイント、たまにはメゾチントもとさまざまな技法にトライして自分自身の美を追求している。特にサンドペーパーを使った背景のぼかしは美しい。

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 もう一つ特徴的なのが、南の作品を見ていると物語を想像してしまう、ということ。彼女自身、絵本や児童文学を創作する作家でもあったからでしょうか。どこかやさしい心情を感じます。彼ら二人が生きた時代、まだ日本は戦争の傷跡から立ち直れず、日々の暮らしで精一杯だったと思います。そんな中で彼らが創り出したものは、奇跡の輝きを放っている。

ーふしぎな世界への小さな窓ー
浜口陽三と南桂子 展
2018年7月14日(土)~9月2日(日)
神戸市立小磯良平記念美術館

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2018年8月 8日 (水)

近代フランス風景画展です

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 旅するフランス風景画、というサブタイトルでプーシキン美術館展が開催されている。国立国際美術館でのこの展示は、おもに18世紀から20世紀初めにかけて約200年間のフランス絵画を、『風景』という切り口で並べている。もともと人物や神話をモチーフにした絵画の『背景』でしかなかった風景。それが印象派前後からもっと前面に現れてくる。こんな流れを、プーシキン美術館が所有する作品65点で手際よくまとめた展覧会だ。

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 自然への賛美、あるいは文明化された都市景観への憧れ。それらは近代市民社会が生み出した価値観や生活スタイルを色濃く反映している。またそれは王侯貴族や宗教的権威だけではなく、一般市民もアート作品を所有できるようになるのと対をなす動きだ。同時に、画家は注文を受けて描く職人から、自分が描きたいものを描く芸術家へ、変貌を遂げることでもあった。

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 やがて身近な自然のなかで新たな光を発見し、ヨーロッパ以外の珍しい風景に刺激され、風景そのものをメインテーマとする表現が生まれてくる。カミーユ・コロー、クールベ、ルノワール、クロード・モネ、シスレー、セザンヌ、ゴーギャン、アンリ・ルソーなどなど。『風景』という視点でとらえた西洋絵画の大きな流れを、そうそうたる巨匠たちの作品がとても雄弁に語ってくれます。

プーシキン美術館展
ー旅するフランス風景画ー
2018年7月21日(土)~10月14日(日)
国立国際美術館

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2018年8月 5日 (日)

天保山で木梨憲武展

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 もとサントリーミュージアムだったところ、天保山の大阪文化館で木梨憲武展が開催されている。自由な精神、おもしろいテーマ、軽妙なセンス、多彩な表現手法・・・。彼のアーティストとしての才能が爆発している、とても素晴らしい展覧会です。

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 ロンドンでの個展で披露した新作を中心に、絵画、ドローイング、映像、オブジェなど約130点を展示。段ボールの表と裏をうまく使ったり、木切れやテープをキャンバスに貼り付けたり。その自由な発想に、へぇー、ほぉー!と感心することばかり。

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 人と人とのつながりや人の暮らしのあたたかさ。住まいを象徴する窓や街並みのぬくもり。手をモチーフにした最新のシリーズなど、木梨さんの人間に対する愛が感じられる。情感もあり、ユーモアもあり、観ていてすごく気持ちがいい。

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 有名タレントの余技かと思っていましたが、とんでもない! ヒトやモノを見る目の確かさと優しいまなざし。これだけの才能は日本美術界にちょっといないのではないか。映画『いぬやしき』主演など、多芸多才な木梨さんはピークの時を迎えています。猛暑のなか出かけた甲斐がありました。 

木梨憲武展
Timing ー 瞬間の光
2018年7月13日(金)~9月2日(日)
大阪文化館・天保山

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2018年7月18日 (水)

ベラスケスの真のすごさ

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 ルネッサンスからマニエリスムを経てバロックに向かう時代に生きたベラスケス。フェリペ四世の庇護を受け、ローマに遊学したときに見たカラバッジョの作品に大きな影響を受けたに違いない。そして行きついた西洋絵画の頂点。迫真の描写力は他の追随を許しません。人物の内面を含めた写実という意味では、その後もこんなすごい画家は生まれていない、と言ってもいいでしょう。

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 ローマ神話の戦争の神マルスを描いても、それまでの画家のように英雄視して凛々しくたくましい姿にはしない。どこかくたびれたオッサンだ。神話の神も生身の人間と変わらず、おなかも減るし、くたびれるし、年をとる。もしかしたら戦の神が失業するぐらい平和な時代を作った王さまを賛美しているのでしょうか。考えすぎかな? いずれにしても伝統的な絵画作法ではない。

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 宮廷画家として王侯貴族とその家族を描いたベラスケス。でもセレブ以外にも目を向けて作品を残している。これは、王子カルロスの遊び相手として仕えていた小人を描いた作品。短い脚、大きな頭、こんな障害を持つ人も、さげすまず嫌悪せず、一人の人間としてありのままにしかも堂々と描いている。近代の人権意識が芽生えるもっと前の時代ですよ。ただ超絶技巧を極めたというだけではなく、物事の本質を見つめ、描く対象の核心にまでせまる表現を追求した点こそ、ベラスケスの偉大さだと思います。

プラド美術館展
ベラスケスと絵画の栄光
2018年6月13日(水)~10月14日(日)
 

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2018年7月15日 (日)

プラド美術館からベラスケス

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 17世紀スペインは「絵画の黄金時代」と呼ばれ、スルバラン、リベーラ、ムリーリョなど偉大な画家を輩出した時代。なかでもベラスケスは別格で、フェリペ4世の宮廷画家として栄光の生涯を送った。のちにマネから「画家の中の画家」と称賛されたほど。たしかにその卓越した表現力は西洋絵画史上の頂点だといっても過言ではありません。今回のプラド美術館展はベラスケスの7作品を中心に、同時代の油彩作品が約60点展示されている。

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 当時のハプスブルク家スペインはネーデルランドや南イタリア、中南米からフィリピンやマカオ、アフリカ大陸沿岸部などを支配下におさめ、太陽の沈まぬ帝国と呼ばれた。そして美術にも造詣が深く、世界最大のパトロンでありコレクターでもありました。新しい宮殿を飾るため、スペインの作家だけではなくブリューゲル、ルーベンス、ティツィアーノなどインターナショナルな芸術家と作品が集められた。それらが今のプラド美術館の母体になっている。

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 何枚もあるフェリペ4世の肖像画のうち『狩猟服姿のフェリペ4世』が日本に来ている。しゃくれた下あごにタラコ唇、忘れようのない顔です。これはハプスブルク家の王さまの特徴。マドリッドで見ると歴代の王さまにこの特徴が現れているのがよくわかる。近親結婚による病気のようですが、そのせいかしばらく後にスペイン・ハプスブルク家の系統は途絶えます。そしてフランス系のブルボン家が王室を継承することになる。こんな時代に活躍したベラスケス。いまはプラド美術館の正面に銅像になって座っています。

プラド美術館展
ベラスケスと絵画の栄光
2018年6月13日(水)~10月14日(日)

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2018年7月12日 (木)

チャペック兄弟の展覧会

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 チェコの国民的作家カレル・チャペック。第一次大戦と第二次大戦の合間に、SF小説の古典『山椒魚戦争』やロボットという言葉を生み出した戯曲『R.U.R.』、そして『園芸家12カ月』など幅広い著作活動で有名です。その兄ヨゼフ・チャペックも画家として、童話作家として活躍しました。今回の展覧会は二人の共作もありますが、見どころの多くは兄のヨゼフの絵画作品です。

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 少年や少女や動物など、小さい生命をあたたかいまなざしで見つめた作品が多い。いきいきとした表情、ユーモラスな情景・・・暮らしの身近なディテールを、ペンで、パステルで、油彩で軽妙に描いている。なかでも『こいぬとこねこは愉快な仲間』や『夏の少年たち』のシリーズは素晴らしい。意外だけれど、キュビズムの影響を受けた実験的な作品など、この時代の画家ならではの創作が200点あまり。

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 この展覧会は「子どもたちを描いたチャペック兄弟の創作」をテーマに展示している。だからナチスに追われた、という鋭い社会批評を含む作品は含まれていない。ちなみに弟カレルはナチス侵攻前に病死。兄ヨゼフはナチスの収容所で死亡。難しい時代に生きた才能ゆたかな兄弟だからこそのやさしさ、あたたかさでしょうか。それを想うとジーンときます。

チャペック兄弟と子どもの世界
2018年7月1日(日)~9月9日(日)
芦屋市立美術博物館

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2018年6月22日 (金)

木蘇皮プロジェクトとは

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 木曽路で開催されている「けものみち」展。山深いこの地ならでは、と思わせるユニークな企画が「木蘇皮プロジェクト」です。山の恵みをクリエイティブに活用していくことはできないか、という思い。自然と共存しながら地域の生活と資源に根ざした文化の創出を目指したい、という願い。これらは明治以降の近代化による自然の破壊と、過疎化による野生の逆襲という、二つの大きな潮流に対してアートは何ができるかという問いへの答えでもあります。

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 有害獣として駆除されたシカやイノシシの大部分は廃棄されているという。これら獣の皮を煮出して膠(ニカワ)をとりだし、煤(すす)と練りこんで墨を作る。毛は筆に使う。そして、なめした皮に絵を描く。これはほんの一例だが、自然と人間が持続可能な関係として循環していくためのヒントになりえると思います。そんな考えも人間の身勝手かもしれません。でも有害鳥獣や害虫などという、自然をリスペクトしない不遜な言葉を死語にするきっかけになればいいと思うんだけど。

木曽ペインティングス Vol.2
けものみち

2018年6月6日(水)~6月21日(木)
長野県木曽郡木曽町/上松町/木祖村

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2018年6月19日 (火)

木曽の「けものみち」展

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 旧中山道の宮ノ腰宿、上松宿、藪原宿の古民家や美術館を舞台に、34人のアーティストによる作品展が開催されている。野生動物と人間の関係、自然と近代化とのバランスなど、山の中の街道とそれを取りまく野生の150年間をテーマにした作品が、宿場町の趣のある場所に工夫を凝らして展示してある。

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 たとえば、サルやシカ,、イノシシやクマなど林業や農業への被害を考えさせられる宮嶋結香の絵画。おもしろい質感だなと思ったら、これらは米袋に描かれている。シワシワの上に絵の具のまだらがいい味を出している。もちろん描かれた動物たちもとても個性的だ。このアーティストはすごく才能があると思います。

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 さまざまな動物をモチーフにした木の造形が色鮮やかな糸で結ばれた伊藤美緒の作品も興味深い。古民家の違い棚や欄間など、昔の建具との対比が新鮮だ。どちらも木を扱う技術が素晴らしい。さすが木の故郷。木曽ならではの技。島崎藤村が「木曽路はすべて山の中である」と書いた時代から百数十年が経った現代、この木曽でこんな企画が生まれるのはいいことだ。

木曽ペインティングス Vol.2
けものみち

2018年6月6日(水)~6月21日(木)
長野県木曽郡木曽町/上松町/木祖村

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2018年6月16日 (土)

「画家の肖像」展だからね

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 いま開催中の「横尾忠則 画家の肖像」展。前回は自画像にまつわる印象を書きましたが、別の階では横尾さんが刺激を受け尊敬する画家たちをテーマにした作品群が展示されている。ピカビア、ピカソ、アンディ・ウォーホル、マン・レイ、キリコ,、マルセル・デュシャンなどをイメージした作品。それがまたよくできている。(生意気なことを言って、横尾さん、ゴメンナサイ)
 
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 やっぱり惚れ込んだアーティストのスタイルや表現の核を、よっぽど深く見ないと特徴はつかめない。このピカソを取り上げた作品も、彼の何人もの奥さんをまわりに散りばめている。しかもそれぞれの女性のイニシャルをつけて肖像画(似顔絵)を描くなんて。冗談きついよ、と言いたくなります。
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 マン・レイはマン・レイだし、ウォーホルはウォーホルだし、ピカビアはまさにピカビア。さすが横尾さん、それぞれの画家のアート世界を見事に表現している。見る目、テクニック、想像力、創造力、すべてそろって初めて描ける作品群だと思う。それにユーモアのセンスもね。観る側は発見の楽しみ満載です。

横尾忠則現代美術館
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横尾忠則 画家の肖像
2018年5月26日(土)~8月26日(日)

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2018年6月13日 (水)

横尾忠則の自画像

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 レンブラントやゴッホをはじめ、昔から自画像を描く画家は多い。横尾忠則さんはそんななかでも特別に多作だと思う。グラフィックデザイナーのころから画家宣言をしたあと、そして現代にいたるまで。肖像として描いたもの。作品の中の一つのイメージ要素として登場させたもの、などなど。いつも自己の内面世界を表現してきた横尾さんらしい。自己顕示欲とは違って、興味津々に自分自身の存在の奥底を探検している感じ。

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 1980年代後半はデザイナーとして確立した方法論を捨て、画家としてのまったく新たなスタイルを模索していた時代。キャンバスの布地を切り貼りした、いま見ても面白い作品群がたくさん生み出された。平面だけの表現では飽き足らず、立体的な手法で次元の違う事象をコラージュし、イメージの多重化と融合によって壮大な叙事詩のようなアート世界を構築している。

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 少年時代の想い出、あるいは生まれる前の(前世の?)記憶。横尾さんはごくごく小さい頃から自己探求を繰り返す子どもだったに違いない。そんな自己を見つめた肖像が、1965年の有名なポスターから2018年の「T+Y自画像」まで、90点余りの作品が展示されている。とても見ごたえのある展覧会でした。

横尾忠則現代美術館
Y+T MOCA
横尾忠則 画家の肖像
2018年5月26日(土)~8月26日(日)

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