アイヌの魂を彫る藤戸竹喜
現れよ。森羅の生命 ー とサブタイトルのついた展覧会 『木彫家 藤戸竹喜の世界』が、国立民族学博物館で開催されている。観光土産のクマを彫る職人・藤戸竹喜が、オリジナルの彫刻作品を作るようになって40数年、見事に才能を花開かせた。クマやオオカミ、エゾジカ、ウサギ、シャチやラッコ、そして先祖たち。自然と共に生きたアイヌ民族のアイデンティティーと誇りをカタチに表している。
クマもオオカミも尊敬の対象であり、彼らも人間に危害を加えることはなかった。それが明治以降、本州から人がいっぱい入ってきて原野や森を開拓し、生活圏がダブるようになってしまった。その結果オオカミは害獣として明治半ばに絶滅させられた。動物も植物も、こうして自然は人間あるいは文明化の犠牲になる。世界中で起こったことと同じ。アイヌの文化も犠牲になっている。
木彫に使う材料も、クルミ、イチイ、シナ、エンジュ、クス、ウォールナット、ニレの埋もれ木など、北海道に生える木を多彩に使っている。これにも意味があると思う。サブタイトルにもあるように、作家は森羅万象あらゆる生命を讃える作品を作り続けているのだ。ここには生きる喜びや悲しみ、怒りや諦めが現れている。自然とは何か? 人間とは何か? 文明とは何か?
決まったポーズの観光客向けの熊を彫り続けるだけでは飽き足らず、新しい表現世界に踏み出した藤戸竹喜。すべて一本の木から彫り出される約90点の作品には、アイヌ民族の歴史と魂がこもっている。それだけにとどまらず、私たちすべての問題を含んでいるから感動を受けるのでしょう。まだまだお元気に制作を続けていってほしいと願っています。
現れよ。森羅の生命 ー
木彫家 藤戸竹喜の世界
2018年1月11日(木)~3月13日(火)
国立民族学博物館
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