2017年7月30日 (日)

木崎湖を舞台にアートする

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 北アルプスという名がついた芸術祭だから、美しい山岳風景や日本の原風景のような里山にインスピレーションを受けたアーティストと作品が多いのは当然でしょう。でも信濃大町の魅力は山だけではありません。湖が3つもあるんです。そのひとつ、木崎湖のまわりにも面白い作品が集まっていた。お天気はいまひとつでしたが、かえって静かで良かったです。

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 五十嵐靖晃の『雲結い(くもゆい)』は、湖から天に向かって垂直に立ち上げられた組み紐の作品。木綿糸320本を束ねて太い紐を作る。そして8本の紐が高く高く組み上げられた。地元の人々との協働で生まれました。糸の総延長はなんと64km! 北アルプスの雪解け水が湖に集まり、やがて空の雲へと還っていく。そしてまた雪が降るという自然の循環を表現している。山の神、水の神へ捧げられたモニュメントだ。

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 もうひとつ印象に残ったのが、アルフレド & イザベル・アキリザンの『ウォーターフィールド(存在と不在)』です。カラフルな大漁旗を翻して帰ってきた船団のように、あるいはお祭りの祝い船のように湖に浮かぶ小舟。のように見えていたのが、近づくとプラスチックのバケツや小型家電やすだれ・・・。これらのガラクタ(?)は人が住まなくなった廃屋から集めたものだそうだ。
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 使っていた人の顔まで想像できるあまりにも日常的な道具たち。いまは使う人もなく、その固有の役割も離れ、ただ波間に漂う。この外国人アーティストの作品は、のんびりした風情とは裏腹に、私たちに鋭い問題意識を提示する。ゴミや資源の問題と過疎化の危機。湖の上でゆらゆら揺られる小舟は現代日本の象徴かもしれない。考えさせられました。
 いろいろと刺激を受けた北アルプス国際芸術祭も、もう閉幕です。また3年後を楽しみに。

北アルプス国際芸術祭
2017年6月4日(日)~7月30日(日)

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2017年7月28日 (金)

通り抜けアートが気を浄化する

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 光の輪から霧が湧き出るジェームズ・タップスコットの作品『Arc ZERO』。勢いよく流れる清流にかかる石の太鼓橋は、仏崎観音寺への参道です。霧に包まれて幽玄な美を感じるだけではなく、光と霧のリングをくぐると少し改まった気分になるのです。俗世間と聖域を隔てる鳥居のような働きがあるのかもしれません。

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 こちら側とあちら側を結ぶ秘密の通路。タップスコットのこの作品をぜひ大町市の新しいパワースポットに認定しましょう。ここを通り抜けると世界の見え方が変わるかもしれません。それに暑い夏は涼しいミストとマイナスイオンで、元気をもらえてリフレッシュできますよ、きっと。

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 和紙でできているらしいでこぼこした赤いトンネル。食道を通り胃に向かう内視鏡の映像を思わせる大平由香理の作品『山の唄』。内臓に似てるといっても決してグロテスクではありません。ご安心ください。歩いていくと前方に明かりが見える。近づくと雪を頂いた山(北アルプスでしょうね)が描かれている。

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 そして赤色は淡くなり、出口に近い部分は真っ白になる。一面の雪世界か?あるいは純粋無垢な魂か? いずれにしても、このトンネルを通り抜けると浄化される。日常の汚れと精神のけがれを取り除いて、ピュアにリセットしてくれる。こんな風に考えるのは虫が良すぎるでしょうか。

北アルプス国際芸術祭
2017年6月4日(日)~7月30日(日)
 

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2017年7月26日 (水)

洞穴と台風と枯山水

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 鷹狩山の頂上にとても気に入った3作品が集まっていました。まずクリエイティブグループ「目」が制作した作品『信濃大町実景舎』。まさに信濃大町の街と北アルプスを見渡す景色を主人公にし作品です。その絶景を見る窓が開いた部屋が、白い雪の洞窟のよう。あるいは繭の内部に入って柔らかい光に包まれた感覚。床も壁も天井も、直線がない。緩やかなカーブと凹凸。だから心穏やかになり癒されるのでしょうね。

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 台湾のリー・クーチェの作品は、『風のはじまり』。山頂近くの森に、近くで集めた木や枝で作った大きなトンネル。台風の目のような直径30mにもなる渦巻き形になっていて、中に入って通り抜けられる構造物だ。ちょっとフィールドアスレチックの迷路で遊ぶのに似ている。このアーティストは、台風の通り道である台湾と日本のつながりを考えてこんな作品を考えたという。納得です。人間と自然の関係性を考えさせられました。

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 もう一つ感銘を受けたおもしろい作品がある。布施知子の『無限折りによる枯山水 鷹狩』だ。広い室内に一面に広がるこの作品、なんと折り紙だというから驚かされる。龍安寺の石庭を思わせる雄大な小宇宙。複雑に折り、曲がり、立ち上がり、光と影で浮かび上がる美しい世界。独自に開発したという独創的な技法で、平面の紙が魔法のように変身していました。

北アルプス国際芸術祭
2017年6月4日(日)~7月30日(日)

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2017年7月24日 (月)

竹の巨人と、ミステリー集落

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 イースター島のモアイ像にも、北斎が描いた荒波にも見える。不思議な存在感で原初の感動を呼び起こす、竹で作った大きな構造物。ニコライ・ポリスキーの作品『バンブーウェーブ』です。信濃大町で開催されている北アルプス国際芸術祭で、ここ八坂地区の竹を使って住民と協同で作り上げられたものです。

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 竹を何本も束ねて組み上げる大がかりな作品。緑の中で高さ10m以上の竹の巨人が10体ほど、ダンスをしたり、首をかしげたり、手をつないだり、なにやら楽しげだ。竹の上の方を割って曲げやすくして、おもしろいカーブをつけて表情を出している。これだけの規模で展開されると、明らかに場の雰囲気が変わるものですね。

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 超音波が発信されている? ミステリーサークル? 山間の小さな小さな集落に現われた黄色いマーク。これはフェリーチェ・ヴァリーニの作品『集落のための楕円』です。棚田を前にしたこの地区にある三世帯の住宅を素材にしたおもしろい表現。典型的な日本の里山風景に、突然異物が入り込む。そのギャップが観る者にさまざまな感情を抱かせる。

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 アプローチから下っていくと、屋根や壁に描かれている黄色い太い線が見えてくる。何だろう?と思いながら、あるポイントまできて振り向くと、一点透視図法の中心から黄色い波紋が広がっている様子がくっきりと見える。建物の凹凸や奥行きを緻密に計算してテープが貼られているのだ。自分の家がアート作品になった、住んでいる人の感想も聞きたいものです。

北アルプス国際芸術祭
2017年6月4日(日)~7月30日(日)

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