2017年9月 7日 (木)

KIITOのロバート・フランク展

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 神戸港に輸出のための生糸検査場があった。その建物を利用して生まれたデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)。さまざまなアートイベントや展覧会に利用されている。いまメインスペースで開催されているのが 「ロバート・フランク:ブックス アンド フィルムス,1947-2017神戸」。
 ロバート・フランクは1924年スイスのチューリッヒ生まれの92歳、ニューヨークとカナダ・ノバスコシア州に住む20世紀を代表する写真家のひとり。革新的な写真術と独自の視点でストリート・フォトグラフィーを創始し、現代写真に大きな影響を与え続けている。と説明されているが、恥ずかしながら彼のことを知りませんでした。

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 この展覧会は展示方法がおもしろい。天井から高さ5mぐらいの垂れ幕が何十本も吊り下げられている。これは新聞用紙のロールにプリントしたものだ。彼自身のオリジナルプリントが数千万円にも高騰した写真界の現状を嫌い、展覧会終了後すべて破り捨てられるというものだ。市場に出ることなく、この世から消えてなくなる。この展示アイデアを聞いたフランクは、「安くて早くて汚い、そうこなくっちゃ!」と言ったという。ちょっといい話だと思いませんか?

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 彼の作品を観ていてハッと気付いた。ケータイ写真、スマホ写真の元祖がフランクなんだ! ストリート・フォトグラフィーの完成形はインスタやユーチューブなんだ! そう考えると納得できる。いまや誰でもいい写真を撮るチャンスはある時代だ。どんな時に、どんな場所にいるか。何を見るか、何を感じるか。
 写真の本質は、現場の記録。そしてきわめて個人的な記憶。残す意味があるかどうかは、世界の記録、社会の記憶として歴史的価値のある文化遺産かどうかにかかっている。プロとアマチュアの境をなくし、ビジュアルコミュニケーションの道を切り拓いたロバート・フランク。お時間があればどうぞ。

Robert Frank:
Books and Films,1947-2017 in Kobe

2017年9月2日(土)~9月22日(金)
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)

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2017年8月26日 (土)

手塚治虫の天才を再認識

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 六甲アイランドの神戸ゆかりの美術館で開催されている「手塚治虫展」。生きているうちから『マンガの神様』と呼ばれていた手塚さん。昭和3年(1928年)11月3日に生まれ、平成元年(1989年)2月9日に亡くなる、まさに激動の昭和を生きた巨人です。ストーリーマンガ、アニメーション・・・。先駆者としての苦闘と表現アイデアが見て取れるいい展覧会です。

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 小さいころから絵が好きで、戦時中も教官に隠れてマンガを描いていたという手塚さんのプロデビューは、まだ医学生だった17歳のとき。そして60歳で死ぬ直前まで描いていた直筆原稿まで、生涯にわたる膨大なマンガやアニメーションのなかから約150点の原画・映像・資料を展示して、その偉大な足跡をたどっている。

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 「ジャングル大帝」、「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」など少年少女向きから、「火の鳥」、「ブッダ」、「ブラック・ジャック」など大人も対象にした奥深いテーマを取り上げたもの。そして晩年の「陽だまりの樹」や「アドルフに告ぐ」など、つねに第一線で活躍。日本のマンガ、アニメを世界のトップへ押し上げた最大の功労者だ。

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 戦前の漫画から戦後のマンガへ。ストーリー展開。コマ割りの革新。擬音語の強調。すべて手塚さんが生みだした。おかげで後の作家たちも見事に育った。生命の尊厳や反戦をテーマにしたスケールの大きい作品は、もし長生きしていたノーベル文学賞を受賞していたのでは、と思わせる。(ボブ・ディランも受賞してるんだし) それはさておき、もし手塚治虫という天才がいなかったら、日本の文化はもっと貧相だったに違いない。

手塚治虫展
2017年7月8日(土)~8月31日(木)
神戸ゆかりの美術館

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2017年8月23日 (水)

ボローニャ絵本原画展

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 今年もボローニャ国際絵本原画展が西宮の大谷美術館で始まりました。さまざまな国のそれぞれ固有の文化・社会的背景を持ったアーティストたちが表現する絵と物語世界。毎年とても興味深く見せてもらっている。その技法もアクリル、グアッシュ、色鉛筆、コラージュ、刺繍、スタンプなど多彩だ。最近の傾向としては、デジタル技術がいろんな局面で使われていることが挙げられる。アイデアをカタチにしやすいことに加え、あとの出版への便利さも優れていて、デジタル化は時代の流れでしょうね。

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 絵本の原画だから、小さい子にも理解できる内容であるべきだ。しかし、社会常識という固定観念に縛られる前の子どもには、柔軟で自由な空想力という武器がある。それによって瞬間的に大人よりずっと深く本質を理解することもあるのだ。絵本を作るってほんとうに難しいと思う。子ども向けだからって馬鹿にしてかかると、逆に子どもに馬鹿にされる。ここには幸いそんな駄作はなく、力のこもった作品ばかりだ。

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 イタリアやフランスをはじめ、ハンガリーやリトアニア、イランや台湾、ブラジルやコロンビアなど61ヵ国3,368の応募から、日本人6名を含む26ヵ国75作家が入選。さすがにどの作品もお国柄や作家の個性などオリジナリティ豊かで、じっくり楽しみながら鑑賞できる。5点組の展示なので、ある程度のストーリー展開も想像できる。(子どもには負ける?) 
 小学生でしょうか、10歳ぐらいの子が何人もひそひそ話したりメモを取ったりしながら鑑賞していました。夏休みの課題になっているのかも知れません。楽しそうでした。


2017イタリア・ボローニャ国際絵本原画展
西宮市大谷記念美術館
2017年8月19日(土)~9月24日(日)

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2017年8月17日 (木)

世界報道写真展が指し示すもの

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 もう終わりに近いが、「世界報道写真展 2017」が梅田のハービスHALLで開催されている。報道写真は世界を映し出す鏡。戦争やテロ、難民や貧困などをテーマにした作品がじつに多い。たしかにこの一年のニュースを振り返ってみても、シリア、IS、イラク、ソマリア、リビアをはじめ、心が痛む悲惨な出来事をたくさん思い出すから当然か。なんか他人事のような言い方しかできない自分が情けないけれど・・・。
 悲劇の本質を一瞬に伝えるシンボリックな作品は、いい報道写真の王道だ。まさに百聞は一見に如かず。しかし、そんな作品を撮るためには、その場にいないといけない。そのために毎年何人かのカメラマンが犠牲になるのも心が痛む。

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 アメリカ・ルイジアナ州で黒人青年が警察官に射殺された。その抗議デモで、警備の警官隊の前に静かに立ちふさがる女性。場違いとも思える優美なドレス、その毅然とした姿は見るものに感動を呼び起こす。暴力には暴力を、という連鎖を断ち切る力強いメッセージが込められている。根深い人種差別の風土を変えるのに武力はいらない。武装した警官隊に、あえて丸腰を強調するコスチュームで。天安門事件で戦車の前に立ちふさがった青年を思い出しました。報道写真の枠を超えて、本当にすぐれた作品だと思う。

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 以前に比べて少し減ってはきましたが、環境問題、野生動物保護をテーマにした作品もがんばっている。捨てられた漁網が絡まったまま泳ぐウミガメ。猛吹雪のあと地面を埋め尽くすチョウの死骸。密猟者の犠牲になったサイ。
 報道写真という性格上、どうしても暗く、重く、深刻な作品が多くなるのは仕方がない。普通で平凡で幸せなシーンはニュースにならないですからね。でも、だからこそ、一目見ただけで気持ちがパッと明るくなる、楽しくなる、勇気づけられる、そんな写真を撮れるカメラマンの出現を待っています。そして新聞やテレビに取り上げられて報道写真展で入賞する時代が来ることを!

変えられた運命
世界報道写真展 2017
2017年8月8日(火)~8月17日(木)
【大阪展】 ハービスHALL

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2017年8月11日 (金)

JUN TAMBAの鉄の彫刻

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 県立美術館の近く、岩屋のBBプラザ美術館で「拡がる彫刻 熱き男たちによるドローイング」展が開催されている。設計図に当たるドローイングと彫刻作品を同じステージで展示する企画。植松奎二、JUN TAMBA、榎忠の三人のアーティストによる連続展である。いまはJUN TAMBAさんの展示。観に行ったときが、たまたま作家によるトークイベントに当たり、考えられないほどラッキーな体験でした。しかも観客は三人。作品を触ったり、質問をしたり、とても親密にお話ができました。

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 アイデアが生まれた時のこと、制作の苦労話、技術的な工夫など・・・それぞれの作品の横で話していただくから良く分かる。「へえ!」「なるほど!」と驚いたり感心したり。鉄の棒や鉄板でできた抽象彫刻にもかかわらず、横たわってる女性や歩く人、大きな帽子をかぶったパリジェンヌなどが眼前に立ち現れる。温め中のアイデアや将来やりたいプロジェクトまで聞かせていただき感激です。「新作のためのファンドを立ち上げられたら、ぜひ一口乗ります」とみんな約束しました。

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 玄関ロビーにも作品が常設されている。鉄が持つ重厚さ、鉄が持つ柔軟さ、鉄が持つ強靭さ。「彫刻は立体、ドローイングは平面」という既成概念を超えて創り出す新たなイメージが魅力です。JUN TAMBAさんは神戸大学人間発達環境研究科教授。塚脇淳さんと言っていたのが2015年からJUN TAMBAさんにアーティスト名を変えたそうだ。なぜ変えられたのか、そこのところは聞き忘れました。

拡がる彫刻
熱き男たちによるドローイング

BBプラザ美術館
・植松奎二 7月4日(火)~30日(日)
・JUN TAMBA  8月4日(金)~27日(日)
・榎 忠 9月3日(日)~28日(火)

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2017年8月 7日 (月)

なんと緻密な!バベルの塔

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 旧約聖書「創世記」の有名なエピソードをテーマに、ブリューゲルが描いた名画『バベルの塔』。壮大かつ緻密。わずか横59.9×縦74.6cmの絵だけれども、その中に約1,400人(誰が数えたんだろう)の建設で働く職人たちがきわめて細密に描かれている。ロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館から持ってきたブリューゲルの代表作。
 最近フランドル、ネーデルランドの美術がブームでしょうか、よく展覧会がありますね。余談ですが。

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 イタリアへ勉強に行ったときに見たローマのコロッセオをヒントにしたと言われる、この巨大な構造物。レンガや漆喰を使い、クレーンを駆使した16世紀ネーデルランドの建築技術を正確に伝えている。木材で足場を組んで上へ上へと天に向かっていく人間の情熱を正しく描写している。
 この画家の作品は、子供の遊びや農民の暮らしを克明に描写し、歴史資料としても重要な役割を果たしている。彼の観察力、描写力は他の追随を許さない。

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 聖書で言う。昔、人々が天まで届く塔を建設しようとした。しかしその野心が神の怒りを買い、統一の言葉を話していた人々の言語をバラバラにされた。意思疎通ができなくなった人々は散っていき、ついに塔は完成しなかった。
 そんな物語を最新の科学と技術を取り込んで表現する。神に対しては冒涜かもしれないけれど、当時のサイエンスの勝利を誇らしく感じていたのでしょう。

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 じつはブリューゲルはもっと若いころ、もう一枚の『バベルの塔』を描いている。その作品はサイズが4倍くらいあるが、存在感では圧倒的に負けている。バベルの物語を主役にした絵が、塔そのものを主役にした絵に進化しているのだ。単なる想像図から、情熱のシンボルを欲する人類の業を表現する哲学にまで至っている。いろんな見せる工夫が企てられた、この展覧会。必見ですよ。

「バベルの塔」展
2017年7月18日(火)~10月15日(日)
国立国際美術館

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2017年7月15日 (土)

O JUN ×棚田康司の展覧会

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 画家・ O JUN(おうじゅん)と彫刻家・棚田康司の「鬩(せめぐ)」展が、伊丹市立美術館で開催されている。単なる二人展ではない。タイトルの通り、まさに二人の表現がせめぎ合っている。それにしても、『鬩』なんてむずかしい字は初めて見ました。せめぎ合いの、せめぐ。絵画と彫刻、ジャンルは違っても、一騎打ちのバトルを繰り広げ、しかもお互いのエネルギーの相互作用でもう一段上の展覧会にまで高められている。

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 1956年生まれの画家は、日常の事物や人物、あるいは抽象的な記号をさまざまな画材をミックスさせて描く。1968年生まれの木彫家は、ミステリアスで不思議な存在感の少年少女を生み出す。第3会場の奥の展示室では、随時公開制作も行われている。この日は棚田さんがノミと木槌で大きな木に対峙しておられました。

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 3つの会場と1階2階のロビーも使った128作品。同じモチーフだとすぐにわかる作品の並びもあれば、まったく脈絡なく並べられているように見えて、なにか妙に心が揺さぶらものもある。不安や不穏や喪失感・・・観ている展示空間からは、現代が決してハッピーなだけじゃないことを示している。

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 「絵画は壁に、彫刻は床に」、という常識を打ち破って入り混じって展示する方法も効果的だ。反発し共鳴し調和して、1+1が5にも10にもなる二人の世界。こんなスリリングな二人展は初めて見ました。まさに鬩ぎ合い、一騎打ちの真剣勝負! ちなみにこの展覧会は伊丹市立美術館の開館30周年を記念したものだそうです。

O JUN × 棚田康司
「鬩(せめぐ)」展

2017年7月8日(土)~8月27日(日)
伊丹市立美術館

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2017年7月 9日 (日)

いまあなたは幸せですか?

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 日本ブータン外交関係樹立30周年記念、『ブータン しあわせに生きるためのヒント』という展覧会が開催中です。1972年にブータン前国王により提唱されたGNH(国民総幸福)Gross National Happiness という考え方が、世界を驚かせました。GDP(国民総生産)を重視して経済発展を追求してきたけれど、モノはあふれるほど豊富になったけれど、はたして幸せになったのか? 文明の進歩は善だ、という概念に疑問を抱き始めた先進諸国の人々。国民総幸福という言葉は、とても深く響きました。

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 また2011年11月、福島県相馬市の小学校を訪れた現国王夫妻。子供たちに「龍を見たことがありますか?」と問いかけて話をされた内容。大人が聞いても感動的でした。こんな素晴らしい偉人が生まれる国ってどんなところなのだろう?と調べてみると、ヒマラヤ山脈の東端にある小さな国で、50年ほど前まで鎖国していたそうだ。だから世界の流れに呑み込まれていない。ムリな開発はせず自然環境を大切にし、暮らしの中にある伝統文化を守り、信仰に篤くおだやかな笑顔の人々。

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 「しあわせとは自分の持っているものを喜ぶことです」。「もしあなたが悪いことをすれば、悪いことが自分に返ってきます。もし善良であれば、いいことが自分に返ってきます」・・・。会場に掲出されているブータンの人々の言葉や、VTR映像で見る現地の生活、織物や祭礼用の仮面に見る丁寧な手仕事などに、「しあわせ」のヒントが隠されているかもしれません。

ブータン
しあわせに生きるためのヒント
2017年7月1日(土)~9月3日(日)
兵庫県立美術館

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2017年6月26日 (月)

人類の、のっぴきならない遊動

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 「INEVITABLE NOMADISM のっぴきならない遊動」という気になるタイトルの展覧会を、京都芸術センターへ観に行ってきました。黒宮菜菜、二藤健人、若木くるみ、若手アーティスト3人のグループ展です。
 10万年前にアフリカを出発したホモサピエンス。何万年をかけて世界のすみずみまで拡がった。その過程でいろんな場所に芸術の痕跡を残してきました。動く、遊ぶ、表現する、残す・・・これらはDNAに組み込まれた人類の本能かもしれません。

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 そんな本能を内包した身体性をベースにした平面作品、映像作品、立体作品、インスタレーションの展覧会。会場の京都芸術センターは、1993年に閉校になった明倫小学校を活用した多目的アートスペース。1階から4階までの元教室や階段の踊り場、廊下を使った展示は見ごたえ十分。
 三人三様、それぞれ面白いが、和紙や染料を使って「にじみ」や「ぼかし」で表現する黒宮さんの独創的な絵画にとても感動しました。由緒ある戦前の名建築と渾然一体となった、素晴らしい世界を産み出している。今後の活動に期待したい。

黒宮菜菜/二藤健人/若木くるみ
INEVITABLE NOMADISM
のっぴきならない遊動

2017年5月25日(木)~7月2日(日)

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2017年6月17日 (土)

陶とガラスのインスタレーション

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 田嶋悦子さんという陶芸作家の「Records of Clay and Glass」という展覧会が、西宮市大谷記念美術館で開催されている。
 草間彌生をもっとおどろおどろしくしたような生命力あふれる初期作品から、ガラスと陶をパーツとして組み合わせたミニマルな立体作品へ、そして陶の表面にアジサイの葉脈を転写し板ガラスとセットして並べるインスタレーションへ。1987年から2017年の最新作まで、15点の代表作で構成された展示はとても見ごたえがある。

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 田嶋さんの創作手法のアイデアは、陶磁器を本体を形作る『粘土』と上からかける釉薬つまり『ガラス』とに分解して再構築することにある。ただし、そんな理屈は表には見えない。聞けば「なるほど!」と納得するけれど。魅力的なのはシャープな造形と、おもしろい質感の対比です。
 一貫して花や葉っぱや蔓など植物をモチーフにして陶芸の可能性を切り開く田嶋ワールド。饒舌な表現から寡黙な表現に変わってきてはいるが、その根底にある「生命賛歌」は変わらない。

Etsuko Tashima
Records of Clay and Glass
西宮市大谷記念美術館
2017年6月10日(土)~7月30日(日)

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