2017年5月27日 (土)

ライアン・ガンダーってなんだー

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 ライアン・ガンダー展が国立国際美術館で開かれている。サブタイトルは「この翼は飛ぶためのものではない」。1976年イギリス生まれ、新しいコンセプチュアルアートの旗手と目されるアーティストだそうだ。ライアン・ガンダー、初めて知りました。
 会場には若い人がとても多い。外国人も多い。よくある美術館の展覧会はシニアの観客が多くを占めるのだけど、これは違う。ポスターやチラシに使われた「あの最高傑作の女性版」という作品。白い壁面の前に立つと、この目玉が気付いて動く。壁に耳あり、障子に目あり。ユーモアたっぷりだ。

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 例えば「ポートレート」のシリーズ。肖像画そのものはなく、肖像画を描いたパレットがいっぱい並べられた作品だ。それぞれのパレットはそこで使われた色が残っている。その色の違いや組み合わせから、どんな人物を描いたか想像を巡らせる、というアイデアだ。だから決まったイメージはなく、鑑賞者一人一人が自分だけのイメージを作者と共同で創り上げる、という感じ。期せずして犯罪の共犯者に仕立て上げられたような、スリルと喜び。

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 作品だけでなく、作品にまつわる思考や美術に対する概念、見ることについての洞察、日常性への知的な関心など、作品創作の背後にある美と知の世界に鑑賞者の意識を誘導する。普段の生活で遭遇する身近な物事を素材として、オブジェ、インスタレーション、絵画、写真、映像、印刷物など、いままで誰もやらなかった多彩な方法論で制作された作品の数々。私たち観る側も想像力を全開にして楽しみましょう。

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 「ガンダーって、なんだー?」 現代美術は『難解』だ、という人も当然たくさんいると思います。それは決まった見方がないから、ではないでしょうか。でも、現代美術の面白さは、まさに「決まった見方がない、すなわち自分勝手に自由に見ればいい」というところだと思う。そして美術の歴史や過去の作品への接し方や経験によってどんどん面白さが深くなる。世界の見え方まで変わるような、充実した時間を過ごせたら幸せです。

ライアン・ガンダー
この翼は飛ぶためのものではない
2017年4月29日(土)~7月2日(日)
国立国際美術館

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2017年5月 6日 (土)

ジョルジュ・ルオーの凄さを知る

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 あべのハルカス美術館で開催中の「マティスとルオー」展。予想以上に楽しめました。とくにジョルジュ・ルオーの展示が良かった。マティスについてはニースのマティス美術館やヴァンスのロザリオ礼拝堂まで足を運んだし、ほかにも国内外の美術館や展覧会でよく観ている。しかしルオーについては油絵の具を厚く塗り重ねたスタイルがなんとなく重苦しく感じられ、無意識のうちに避けていたのかもしれない。

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 今回は若き日の水彩やパステルの作品から、独自のスタイルを築き上げ宗教画家と呼ばれる晩年まで、約70点の作品を一気に観られてとても楽しかった。キリストやマグダラのマリアを描く現代のイコンのような作品からは、深い精神性と崇高な情熱がじかに伝わってくる。大きな感動を与えられました。「重苦しさ」なんてまったく感じず、ピュアな魂に対面できた喜びで胸がいっぱいになりました。

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 そして驚いたことに、ルオーの展示作品の半分以上はなんとパナソニック汐留ミュージアムの所蔵。こんなに充実したコレクションが日本国内にあったとは、まったく知りませんでした。この展覧会の後も、東京に行けば気軽にルオー作品に出会えるなんて素晴らしいこと。これも今回の発見の一つです。『マティスとルオー 友情の手紙』(みすず書房)刊行記念の展覧会でした。

友情50年の物語
マティスとルオー
2017年4月4日(火)~5月28日(日)
あべのハルカス美術館

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2017年5月 3日 (水)

マティスとルオーは終生の友

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 それぞれ20世紀を代表するフランスの画家、アンリ・マティスとジョルジュ・ルオー。若き日、国立美術学校のギュスターブ・モロー教室で出会って以来、創作の悩みを打ち明けたり、家庭の問題を相談したり、病気の治療法をアドバイスしたりしながら、死ぬまで友情を育み続けたとは知りませんでした。

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 あべのハルカス美術館で開催中の展覧会は、1906年からマティスが亡くなる前年の1953年まで交わされた二人の手紙がいくつも展示され、とても興味深い。二度の世界大戦をはさみ半世紀にわたる交流。創作の方向性は異なっても、お互いの芸術への深い敬意と信頼が伝わってくる。
 あまり見る機会がなかった初期の作品から、マティス『JAZZ』シリーズやルオーのキリスト教をテーマにした晩年の作品まで、約140点を見ることができる。予想以上に充実した展示でした。

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 そしてマティス最晩年の作品で、個人的には最高傑作だと思っているヴァンスにあるロザリオ礼拝堂が、映像で紹介されていた。建物から神父さんの礼拝用のコスチュームまで、すべてがマティスの作品。その礼拝堂のディテールを見ていると、10年ほど前に訪れたときの身体が震えるほどの感動がよみがえった。近いうちにもう一度行かなくては、と強く決意しました。「いつか」なんて言ってると、いつどうなるかわからない年齢になりましたからね。あ、そうそう、マティスでよく出てくるモティーフはワカメのような海藻かな、と思っていましたが、サボテンの一種なんですね。この映像で分かりました。

友情50年の物語
マティスとルオー
2017年4月4日(火)~5月28日(日)
あべのハルカス美術館

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2017年4月27日 (木)

天正遣欧少年使節の展覧会

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 1582年(天正10年)2月20日、長崎を出発。マカオ、マラッカ、インドのゴアを経由。喜望峰を回って、1584年8月10日、ポルトガルのリスボンに到着。2年半におよぶ長旅だ。当時13~14歳の伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチノの遣欧使節団はマドリードやフィレンツェなど各地で熱烈な歓迎を受け、1585年3月23日ついにローマ教皇グレゴリウス13世に謁見がかなう。このとき教皇は感動の涙を流したと記録に残っている。
 プロテスタントとの戦いが続くなかで、カトリックの優越性を示したいローマ教会とイエズス会の思惑で企画された遣欧少年使節は、ヨーロッパ中に大きなインパクトを与えることに成功する。

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 神戸市立博物館で開催されている「天正遣欧少年使節がたどったイタリア 遥かなるルネサンス」展は、彼らの足跡をイタリアのルネサンス美術作品で浮かび上がらせようという企画。トスカーナ大公国、ヴェネツィア共和国、ローマ教皇領などの肖像画や貴石モザイク、メダルやタペストリー、ブロンズ像や甲冑、書籍や地図、陶器や磁器・・・計75点の展示だ。
 1590年、彼らが帰国したときはすでに豊臣秀吉がバテレン追放令を発布していた。彼らの後の人生は大きく揺らぐことになる。

遥かなるルネサンス
天正遣欧少年使節がたどったイタリア
2017年4月22日(土)~7月17日(月・祝)
神戸市立博物館

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2017年4月21日 (金)

ヨコオ・ワールド・ツアーですよ

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 横尾忠則現代美術館の開館5周年記念展「ヨコオ・ワールド・ツアー」が、いま開催されている。そうなんだ!もう5年経ったんだ! ここの建物をリニューアル工事をしていたのは、ついこの間だったような気がする。でも考えてみれば、まだ元町のギャラリーで忙しくしていたころだ。そう思えばずいぶん昔のような気もする。時間って不思議なものだ。

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 毎回の企画展も欠かさず見ているけれど、これだけさまざまな切り口で展覧会ができるアーティストは世界を見渡してもちょっといないでしょう。横尾さんはそれだけ多様で多彩で多数の作品を創って来た、ということ。今回は海外への旅がテーマで、タブローやポスター、版画など100点余りの展示。1964年のヨーロッパ旅行(和田誠や篠山紀信といっしょ)以来、ニューヨークやインドなど世界各国を訪れる。行く先々で刺激を受け、そこから湧き出るイマジネーションを絵画で表現する。

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 今回は画家宣言をする前、グラフィックデザイナー/イラストレーター時代の作品もたくさん展示されていた。天井桟敷やビートルズのポスター、サンタナやエマーソン・レイク・パーマーのレコードジャケットなど、とても懐かしい。リサ・ライオンを素材にした絵画作品と映像作品は、個人的には特に思い出深かった。若い人はリサ・ライオンなんて知らないでしょうけど。

開館5周年記念
ヨコオ・ワールド・ツアー
2017年4月15日(土)~8月20日(日)
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館

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2017年4月15日 (土)

展覧会名は、新宮晋の宇宙船

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 「無限に広がる宇宙に存在する数えきれない星の中でも、色彩豊かで、様々な光や音が響きあう、とびっきりユニークな星、地球に、一人の人間としてボクは生まれた。これはどう考えても、奇跡としか言いようがない」。兵庫県立美術館で開催中の「新宮晋の宇宙船」展。風や水など自然の力で動く作品で、世界で活躍し評価の高いアーティストです。

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 風、水、光、影・・・地球そのものの生命力を感じる作品は、関空の国際線出発ロビーやJR神戸駅前、三田にある素晴らしい風のミュージアムをはじめ、NYやパリ、ジェノバなど世界各地で目にすることができる。ピカピカに反射する鏡面のステンレスや透けた布、紙やカーボンファイバーなどでできた造形の動きがおもしろい。次を予想できない不思議な動き。小学校の工作をもっともっと科学的にし、もっともっとファンタジーにしたような夢のある作品群です。

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 今回の展覧会は2013年以降の新しい作品が18点展示されている。そしてビデオ映像作品が3点。美術館屋内の展示なので、新宮作品としては比較的小さめだが、そのぶん照明の当て方などで今までなかった面白い効果を出しているものもある。そしてそれら軽め、小さめの作品を携えて移動展示とワークショップで世界各地を巡っているそうだ。地球の自然環境や宇宙のしくみといった、壮大なテーマに取り組む姿勢がとてもカッコいい。
 

風と水の彫刻家
新宮晋の宇宙船 SPACESHIP
兵庫県立美術館
2017年3月18日(土)~5月7日(日)という

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2017年3月24日 (金)

メイプルソープ、静かな挑発

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 美術としての写真を考えるとき、もっとも重要なアーティストはロバート・メイプルソープでしょう。1946年生まれ、1989年AIDSにより死亡。40歳代前半に亡くなった当時、エッまだ若いやろ!という驚きと、やっぱりね!というあきらめが同時に気持ちの中にわいてきたものだ。妖しく、美しく、かの時代に咲い大輪の才能。いま銀座のシャネル・ネクサス・ホールで「Memento Mori ロバート・メイプルソープ写真展」が開催されているので行ってきました。

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 彼がたくさん残した素晴らしい肖像写真。生と死。男性と女性と性的マイノリティ。フィルムに定着させる被写体の個性(特にゲイの男性)は、本人よりはるかに鮮明に現れていると思う。70年代から80年代、スキャンダラスな社会問題となりながら進行していた「性の革命」。メイプルソープはそのシンボル的な作家のひとりでした。LGBTのデモやお祭り的集会が日本でも開かれるなんて、まったく思いもしなかった。時代の変わりようは予想よりはるかに速くドラスティックだ。

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 ハッとさせるモチーフのとらえかた、古典的ともいえる構図の見事さ。ゼラチンシルバープリントの超絶美しさ、モノクロームの深い表現力。20世紀後半の芸術シーンに大きな影響を与えたメイプルソープの作品が、まとめて91点も鑑賞できるいいチャンスです。花で、肉体で、著名人の肖像で、私たちを静かに挑発する作品の数々。写真が記録から美術になったこと、そして彼以後写真が変わったことを、ぜひご覧ください。

Memento Mori
ロバート メイプルソープ写真展 ピーター マリーノ コレクション

シャネル・ネクサス・ホール
2017年3月14日(火)~4月9日(日)
12:00-20:00 無休

 

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2017年3月21日 (火)

草間彌生の凄さは何だろう?

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 草間彌生はアーティスト人生としては、もう最終章に入っていてもおかしくないと思う。でもでも、年齢を感じさせるどころか、ますます若々しく過激にエネルギッシュになっている。北斎もマティスも優れた芸術家はみんなそうだが、老いてますます盛ん。年とともに枯れるどころか死ぬまで現役。どんどん自由にパワフルになってくるのは興味深い。たぶん芸術家はいつまでも、「これは面白い」、「もっとこんな作品を創りたい」と好奇心と野心にあふれているのでしょう。

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 展覧会の会場は、そんな作家の情熱を感じてか熱気にあふれている。しかも若い人たちがとても多い。少女時代からの水玉や網目の強迫観念に追われて制作していた頃の作品より、もっともっと自分自身に正直になっていると感じる。だからものすごいスピードで真のアートを量産しているのだ。それってスゴイことだと思いませんか。われわれ凡人でも年齢とともにエネルギーが落ちてくるのに、はるかに精神集中と緊張を強いられるアート制作にエネルギッシュに取り組んでいる。

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 それが天才としか言いようがない草間彌生たる所以。フィレンツェのヴァザーリの回廊に展示してあった自画像の迫力たるや、西洋のそうそうたる巨匠の自画像を圧倒しておりました。この人の場合、いま自分が表現したい世界と世間の人々の意識がぴったりマッチしたサイコーの時を迎えているのでしょう。時代との幸せなマリアージュ。
 ミュージアムショップの売れ行きがこんなにすごいアーティストはかつていなかったんじゃないか。それにこんなにグッズにしやすい作家も。日本の宝ですね。

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草間彌生 わが永遠の魂
国立新美術館
2017年2月22日(水)~5月22日(月)

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2017年3月18日 (土)

やっぱり草間彌生が好き

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 六本木の国立新美術館で開催中の「草間彌生 わが永遠の魂」。松本市美術館の常設展示(地元・松本の子供たちは白地に赤の水玉をみて、毒キノコだと恐れるそうだが)と、2年前だったかな、大阪の国立国際美術館で開催された展覧会をミックスして、思い切りパワーアップした感じの素晴らしい展覧会です。切符売り場の行列やミュージアムショップのキャッシャーに殺到する人並みは、想像以上。日本人の草間彌生好きが現れているな、と思いました。

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 学生時代の初期作品からニューヨーク時代の有名なパフォーマンスの記録映像やネット絵画、5年ほど前から精力的に描き続けているタテヨコ約2mのタブローまで、約150作品が広い展示会場の壁一面にかけられている。これらを観ていると、若いころから過激さと先鋭さとパワーにおいて日本人アーティストではナンバーワンだった草間さん。ますますパワーアップしたタブローを毎日毎日エネルギッシュに制作し続けている。しかも常に新しいアイデアとチャレンジを取り入れながら。

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草間彌生 わが永遠の魂
国立新美術館
2017年2月22日(水)~5月22日(月)

 

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2017年3月15日 (水)

画壇の仙人、熊谷守一

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 明治13年(1880)岐阜県生まれ、昭和52年(1977)に97歳で亡くなった熊谷守一。没後40年の展覧会が神戸御影の香雪美術館で開催されている。油彩画をはじめ水墨画や書など約70点が展示されている。「お前百まで わしゃいつまでも」という書もあるように、ひょうひょうと長生きした画家だ。その作品は元祖ヘタウマとも呼ぶべき素朴なスタイルで、ネコやカエルやアリなど身近な生命や、石ころや雨滴など自然の中の小さなモノに視線を注ぐ。

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 ベニヤ板に油彩で描く。シンプルな輪郭線と平面的な色彩面で構成する。そんな独自の作風が確立されたのは、70歳を過ぎてから。ずいぶん遅咲きですね。生活は困窮を極めたが、自分の道を黙々と進む。文化勲章を辞退して「画壇の仙人」と話題になったこともある。純粋、無垢なスタイルと生きざまは、いまもファンが多い。

Photo_3  書も十数点展示されているが、絵とまったく同じ世界観だ。「ふくはうち」、「かみさま」、「花よりだんご 九十七才」などなど。ヘタなのかうまいのか、私にはわかりません。ただし、すごく味わい深い書だと思う。もちろん絵とは違うけど、それぞれのビジュアルが目に浮かぶような字なのだ。あくまで画家の字で、書家の字ではない。観客も絵と同じスタンスで鑑賞しているのでしょう。

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 熊谷守一には『へたも繪のうち』という本がある。その中に「なくなった坂本繁二郎さんは、若いころから名誉とか金とかには、全く関心のない人でしたが、いい絵を一生懸命に描かなければならないという感じは持っていたようです。しかし、私は名誉や金はおろか、『ぜひすばらしい芸術を描こう』などという気持ちもないのだから、本当に不心得なのです。しかし、不心得だが、それがいけないとは思っていません」と書いている。まさに仙人ですね。

没後40年
熊谷守一 お前百まで わしゃいつまでも
2017年3月11日(土)~5月7日(日)
香雪美術館

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