浪のなかに宇宙を観た
あべのハルカス美術館で開催中の「北斎」展。- 富士を超えて ー というサブタイトルがついた大英博物館との共同プロジェクト。ロンドンで評判を呼び、大変な観客を動員した展覧会を日本に持ってきたものです。ハルカスでも平日なのにチケット売り場は40分待ちの行列でした。おもしろいのは90歳で死ぬまでの晩年30年間の作品に焦点を当てていること。そして版画だけではなく、肉筆画を世界中から集めていること。約200点の展示作品はどれも完成度がメチャクチャ高い。「八十歳を過ぎてなお、猫一匹描けねえと悔し泣き」と、書き残された北斎の向上心と執念が伝わってくる。
そんな北斎が追求し続けた表現テーマのひとつが、動く水。海外では「The Great Wave」と呼ばれる富嶽三十六景の『神奈川沖浪裏』。展覧会のポスターでも使われたこの名作を生みだしたのは70歳過ぎのこと。現代のカメラで5000分の1秒という特殊なシャッタースピードで初めて見える波頭。よく肉眼で観察できたものだ。若い頃から描かれたさまざまな浪を見ていくと、風景の一部から絵の主役に変わっていくのがわかる。その流れを極限まで推し進めたのが、信州小布施の祭り屋台の天井画『怒涛』。男浪と女浪で対になっている。小布施へ行けば北斎がデザインした祭り屋台2基の全体を観られる。たぶん北斎の立体作品はこれしかない。ちなみにもう1基の天井画は『龍と鳳凰』。
ご覧のように、ここまでくると絵の主役を通り越して、もう抽象的な運動体としての浪。すでに風景ですらなく、宇宙物理学の領域。ブラックホールや超新星のようだ。(見たことはありませんが) 美しいブルーの濃淡は、オランダ商館を通じて入ってきたばかりのプルシアンブルーや日本の藍を使い分け、緑青のグリーンも組み合わせて表現している。そして、どちらも縁の枠には色鮮やかな花や鳥が華麗に描かれている。これは娘の葛飾応為の作品。彼女も名人です。八十を過ぎてから何度も小布施を訪れて作品を残した北斎。新幹線もクルマもない時代、老体で何百キロも歩くしかない。絵を描ける喜びだけを求めた執念ですね。
大英博物館 国際共同プロジェクト
北斎 ー 富士を超えて ー
2017年10月6日(金)~11月19日(日)
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