アイルランドの美しいアニメです
世界で最も美しい本と言われるのが、アイルランドの国宝 『ケルズの書』。この実在の装飾写本をめぐる少年修道士ブレンダンの冒険を描いたファンタジーが、トム・ムーア監督のデビュー作「ブレンダンとケルズの秘密」です。
ちなみに昨年公開され話題作「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、この後に作られたムーア監督の第2作目。
舞台はバイキングの襲来におびえる9世紀のアイルランド。ケルト文化特有の渦巻きの文様、森の動物や植物、妖精や伝説の怪物があらわれる物語世界。なにより絵の魅力と演出のテクニックが斬新な、見たこともないアニメーション映画です。そしてこの映画は、ある国・地域の固有の文化を掘り下げた優れた表現は、人類共通の宝物であり世界に通じる普遍性を獲得するということの、すばらしい証明でもあります。
絵はディズニーやジブリのように洗練されていない。人物も紙を切り抜いたようなペラペラな表現で、顔と体の向きもヘンだ。森の木々も型紙をペタペタと置いていったような類型化の繰り返し。でもこれは下手なのではない。あえて平面的に、装飾的に、文様的にしているのだ。きっと絵画技法を歴史的に研究した賜物の表現で、東方教会のモザイク画やイコンを彷彿とさせる。すごく美しい。説得力がある。新鮮な感動を与えてくれる。これ、決してほめすぎではありません。
9世紀の出来事を、まだ透視図法が発明される前の中世絵画を意識した画法で描く。とても論理的に考えられている。輪郭線を強調しているのも効果的だ。そして光と影の表現もうまいし。そしてスピード感がある21世紀ならではの演出で、最後まで一気に引っ張っていく。新たな才能との出会いでした。
アイルランド・・・緑色がナショナルカラーで、クローバーがシンボルで、セント・パトリックが守護聖人の国。素晴らしい音楽と相まって、これ以上のアイルランド賛歌は作れないでしょう。そしてまだまだ発展するアニメの表現、その可能性は限りないと思いました。
Secret of Kells
ブレンダンとケルズの秘密
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