ブリューゲルの作品に入り込む
「わけのわからん映画やったな」、「それより足元が窮屈やったわ」・・・。兵庫県立美術館ミュージアムホールで上映された『ブリューゲルの動く絵』(The Mill and The Cross)を観終わった後、帰る人々の感想です。美術館の名画サロンなので、美術ファンが集まっていたと思われるのですが。たしかに難解ではありましたが、物語に引き込まれて私なりに十分楽しめました。
ピーテル・ブリューゲルの代表作のひとつ『十字架を担うキリスト』(ゴルゴダの丘への行進)の作品世界に入り込み、絵に秘められた意味を解き明かしていく、という意欲的、実験的な映画だ。ブリューゲルが生きた16世紀フランドルの人々の日常生活をうつす実写映像と、100人以上の登場人物を配置しさまざまな物語を重層させる絵画世界。この両方をうまく融合させる表現手法が、名画解釈に今までになかった深みをもたらしている。
当時はハプスブルグ家がオーストリアやドイツをはじめフランドルやスペイン、その植民地の中米や南米を支配していた時代。フランドルにも赤い制服を着たスペインの傭兵が駐屯し、プロテスタント(異端者)を弾圧していた。
キリストの受難をそんなフランドルに置き換えた『十字架を担うキリスト』。聖母マリアもお決まりの赤と青のコスチュームをまとっていない。しかも十字架を背負ったキリストも、構図の中心点には描かれているが、よくよく見ないとわからないほどの小ささ。むしろ子供たちの遊びや物売りが並べている商品、牧童の生活などのディテールに情熱を傾けたのような絵なのだ。
本来なら宗教画、歴史画にならなくてはいけないテーマを借りながら、庶民の生活を生き生きと記録した風俗画。この絵を素晴らしい映像美で解剖したのが映画『ブリューゲルの動く絵』。映画の基になった左右170cmの名画は、ウイーンの美術史美術館でご覧ください。
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