2016年12月 1日 (木)

ポンペイの赤は鮮やかです

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 西暦79年、ヴェスヴィオ火山の噴火により、1日で消滅したポンペイとその周辺のエルコラーノやトッレ・デル・グレコなどの町々。18世紀半ばに土の下から発見された古代ローマ遺跡の建物からは、色鮮やかな壁画がたくさん見つかった。火山灰や火砕流であっという間に埋もれたこと、火山灰が乾燥材の役割を果たしたことなどが原因で、2000年近く前のフレスコが色あせず鮮やかに保存されていた。これはまさに奇跡です。
 日伊国交150周年記念の事業として、兵庫県立美術館で開催中の世界遺産「ポンペイの壁画」展。有名な『ポンペイの赤』だけではなく、『エジプト青』も印象的でした。これはカメオ作家の町、トッレ・デル・グレコの海浜別荘跡で多用されていた。

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 驚いたのは表現技術です。人物や動物の描写力、建築物を描く透視図法。西洋絵画ではルネサンスの先駆けのジョットが現れるまで、稚拙な表現しかできないと思っていましたが・・・。ミロのヴィーナスやサモトラケのニケをはじめ古代彫刻は素晴らしいのに、なぜ絵画は進歩しなかったのだろう?と不思議に思っていた。でも、大間違いだった。暗黒の中世に、古代ギリシャ・ローマ時代の進んだ絵画表現技術が失われてしまったのだ。キリスト教の悪しき影響なのでしょうか。

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 ポンペイ遺跡には2回行ったことがあるが、50年前と20年前。(古う~) こんな素晴らしい作品は観た記憶がなかった。クレジットを見ると今回の展示作品は、ほとんどナポリ国立考古学博物館のもの。そうか、出土した壁画は切り取って、保存状態をうまくコントロールできる博物館に収蔵しているのだ。考古学博物館という名前だけで古めかしいものばかりと決めつけて、行ったことがなかった。次にナポリへ行ったらピザ屋巡りだけじゃなく考古学博物館にも足を延ばしてみましょう。

ポンペイの壁画展
2016年10月15日(土)~12月25日(日)
兵庫県立美術館

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2016年11月17日 (木)

時間のタイムカプセル

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 金属パイプでできた鳥かごのような、地球儀のような、「六甲枝垂れ」という建造物。中には木造の塔が建っている。その内部は夏涼しく冬暖かい。エアコンなど一切使わず自然の風だけで空調する不思議な空間です。高い吹き抜けからさす光。周囲の板張りの壁。ここに入ってらせん階段を下りていくと、だんだん暗くなり、いつも胎内に戻っていくような感覚になる。

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 ここの天井(?)から吊り下げられたゴージャスなシャンデリア。八木良太の作品「Clock Tower」です。作者は枝垂れの内部を、時計塔の内部に入ったイメージがして、この作品のアイデアを思い付いたという。天からの光を受けキラキラと輝くこの作品。よく見ると何十本もの腕時計でできているのだ。アーティストはこれで何を伝えようとしているのだろうか。

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 時間の感覚は人それぞれに違う。同じ人でも年齢により、季節により、昼か夜かにより、その日の気分により、時の進み方は速かったり遅かったりさまざまだ。時計は時間のスピードに公平性と客観性を与えるための道具だ。特に腕時計はいつも身近にあって、個人的な時間の流れに秩序を与え、リアルな現実につなぎとめる役割がある。ここに吊るされた時計たちは、これを身につけていた何十人もの人々が過ごした時間を封じ込めたタイムカプセル。愛も憎しみも、喜びも悲しみも、みんなここにある。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016
2016年9月14日(水)~11月23日(水・祝)

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2016年11月 5日 (土)

六甲山にUFO出現?

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 六甲山のあたりはUFOの出現率が高い!という人がいるそうです。一人ではなく何人も・・・。私は見たことがありません。残念ながら。
 で、アーティスト岡本光博はサービス精神からかユーモア精神からか、六甲山上のカンツリーハウスにUFOを創り出して私たちに見せてくれました。大芝生広場のいちばん上に不時着したのか、これから飛び立とうとしているのか。「w#191UFO-unidentified feed object (未確認供給物体)」という作品です。ちょっとうれしい昔懐かしアダムスキー型だ。以前は空飛ぶ円盤と言っていました。

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 同じく岡本光博の作品が、カンツリーハウス東入り口近くの池にある。「w#190UFO-unidentified falling object (未確認墜落物体)」だ。これは鏡像にはなっているけど、日清食品UFO焼きそばのパロディだ。カップが池に墜落したんですね。たしかに、これもUFOに違いない。うわさや伝説ではなく、なんとか私たちにUFO(とおぼしきもの)を見せてやろうとガンバってくれている。
 UFOや宇宙人が実在するかどうかよりも、マジメにそれを考えることを笑い飛ばしているのでしょう。有るものはあるし、無いものはない。それだけのことだ。アートも面白いと思う人には面白い。それだけのことだ。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016
2016年9月14日(水)~11月23日(水・祝)

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2016年11月 3日 (木)

美しい!漆の家プロジェクト

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 漆の技術は日本全国にあるらしい。春慶塗や輪島塗など有名どころは数々あれど、香川県の漆芸は知らなかった。そして漆と聞いて、お盆やお椀しか思い浮かばないのは知識がきわめて貧弱だ、ということもよくわかりました。たとえば黒の部屋。まるで鏡のようにまわりを映す黒い漆で塗られた壁に囲まれている。漆黒の宇宙空間いっぱいに星がきらめいているように見えるのは、色漆を何層にも塗り重ねたあとまるく彫り出したもの。「彫漆」と呼ばれる技法だそうだ。

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 瀬戸内海の夕焼けのような白から紅に移り変わる作品。これは白と紅色に漆を塗った木製テープを網代に編んで作られたもの。光の当たりぐあいで微妙に色味が変わり、時間の推移も感じられる美しく華やかな出来上がりです。
 グリーンの床も木目が浮き出て美しい。それまでは黒か朱がほとんどだった漆に白色を作れるようになってから、緑や藤色などいろんな色を出せるようになったそうだ。床に漆なんて使っているうちに剥げてくるのでは?という問いには、「また塗ればいいんです」とのこと。

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 男木島の「漆の家プロジェクト」は日本が世界に誇る漆技法をPRするショールーム。とても美しくて表現の幅が広い漆。小物から家具・調度品や建築の部材にまで、生活のさまざまなシーンに使われている。そしてもっともっと用途を広げる可能性を秘めた素材だ。
 畳の座敷に併設されたカフェのテーブルは、グレーやサーモンピンク、ネイビーやオレンジの箱。これが本当に美しい。木の箱に麻布を貼って漆を塗ったものだそうです。色彩ゆたかな讃岐の漆、その特徴がよく出ている。

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 古民家をフルに使って、壁、床、建具など適材適所に伝統の讃岐漆芸技法を活用している漆の家。おトイレも赤と黒のモダンな造りで、地元の漆工芸家たちが力を入れているのがよく伝わってくる。いろんなところにもっと漆を!という啓蒙活動として成功しているのはもちろんだが、それ以上にアートとして見ごたえがありました。痛んだら上から塗りなおせばいい、というエコロジー性も実に今風じゃないですか。

瀬戸内国際芸術祭2016
秋会期:10月8日(土)~11月6日(日)

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2016年11月 1日 (火)

小学校が大竹ワールドに!

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 女木島にある女木小学校。休校中だそうだが、再開する見込みはあるのだろうか。で、瀬戸内国際芸術祭ではこの場所を使った大竹伸朗の大がかりな展示が行われている。ハッと目が覚めるような蛍光グリーンに塗られた校舎。カラフルなアクリル板の屋根、モザイクタイルを敷き詰めた廊下。典型的な学校建築の姿をとどめつつ、そこかしこに置かれたオブジェやショッキングな色使いで、パワフルなワンダーランドに誘い込む。

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 作品名は「女根/めこん」。このタイトルは男根に対応した言葉としてアーティストが考えたものでしょう。校庭の植え込みの中に建つ巨大な造形物。これを構成する立体や観葉植物、写真や使い捨てられた道具など、個々のディテールがおもしろい。猥雑な歓楽街か、カリブ海沿岸の裏町を好奇心のおもむくままにさまよいながら、ちょっとイケナイものをのぞき、少しだけコワイ目に合うのを楽しむ。そんな感じでしょうか。

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 本来ならば小学校として、少年少女たちが清く正しく学んでいたはずの場所。でも本当はそんなキレイごとだけでは人間は育たない。アーティストが創り出した学校は、社会の荒波に負けない強靭な生命力や、古い慣習や人間関係をぶち壊すエネルギー、そんな生きるための勇気を学ぶ人生の学校。今からでも遅くない。もう一度入学して生命の本質を学び直すのもいいかもしれません。

瀬戸内国際芸術祭2016
秋会期:10月8日(土)~11月6日(日)

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2016年10月30日 (日)

思い出のタイムカプセル

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 白壁の土蔵に入ると、暗い室内に一面の光のオブジェが。クリスマスのイルミネーションのようにまばゆくきらめいている。高い天井から吊り下げられた1,000個以上のガラス瓶を使ったインスタレーションは、栗真由美の「記憶のボトル」。瀬戸内国際芸術祭の男木島に展示されている作品です。

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 瓶の中には男木島の人たちの思い出の品が封入してある。瓶ひとつひとつに小さなLEDランプが灯り、みんなの記憶を美しく輝かす。それは試験の答案用紙だったり、結婚祝いの熨斗袋だったり、ウルトラマンのフィギュアだったり、古い記念写真だったり・・・。見ず知らずの人たちの記憶の断片ながら、つい見入ってしまう。

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 懐かしく、切なく、忘れてしまっていた自分の人生のワンシーンを思い起こす。いわばタイムカプセルに閉じ込められていた記憶を、静かな眠りから揺り戻して自分の眼前にさらすような作用。とてもよくできたタイムマシーンです。楽しいだけではなく、つらいことも悲しいこともあったに違いないけれど、どの記憶も光り輝いているのがいいじゃないですか。とても好きな作品です。

瀬戸内国際芸術祭2016
秋会期:10月8日(土)~11月6日(日)

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2016年10月28日 (金)

棚田に現れた竹の家

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 小豆島の内陸部、中山千枚田の底に大きな鳥かごのようなものが目に入る。ワン・ウェンチー(王文志)の作品「オリーブの夢」。地元産の竹を約4,000本使って構築した巨大ドームだ。この台湾のアーティストは2013年の前回芸術祭で、同じ場所にやはり竹を編んで「小豆島の光」というタイトルの巨大なドームを構築していた。

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 稲の実り具合を見ながら棚田のあぜ道を降りて行く。竹でできたアプローチを通りオリーブ形の門をくぐって、いざ内部へ。中は想像以上に広く、天井(?)の高い空間だ。床に寝転んでボーっと上を眺める人。ゆっくり歩いている人。腰かけてまわりの壁の編み模様を見ている人。みんな思い思いに自分の世界に浸っている。

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 柱も、床も、壁も、すべて竹。靴を脱いで青竹踏みの感触を楽しみながら、なぜこんなにゆったりした気分になるのか?を考えた。竹で編んだだけなので光は通る、風も吹き抜ける。雨が降ればとうぜんびしょ濡れだ。ぬるま湯の露天風呂につかっているのに似ている。自然の素材だけで構築されたものに囲まれていると、人間は穏やかになるようだ。こせこせした、ぎくしゃくした、ストレスの多い日常から一時離れるのもいいことですね。

瀬戸内国際芸術祭2016
秋会期:10月8日(土)~11月6日(日)

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2016年10月26日 (水)

万華鏡の中に迷い込む?

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 瀬戸内国際芸術祭に行ってきました。今年は猛暑だったので夏開催は避け、歩きまわっても安心な秋開催に。ムリできない年齢ですからね。
 まずご紹介するのは、男木島にある古民家の家中で展開する川島猛とドリームフレンズによる「KALEIDOSCOPE Black and White」。白と黒、線と面だけで作った床や壁や天井の部屋の中を観て回る、という作品です。シートにプリントしたものを貼ったり、トレーシングシートのような乳白色の素材にプリントしたものを上から吊るしたり。あるいはプロジェクターで投影したり。そして壁の一部はピカピカの鏡面ステンレスが斜めに湾曲していたり。

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 歩いている自分の体にも白黒のパターンが投影されて、作品を構成する一部になる。壁のある部分は合わせ鏡になって、どこまでも多重の空間が広がる。どこまでが現実か、どこからが虚構か、その境界がどんどんあいまいになって作品世界と一体になる。自分も作品に参加しているというより、作品の中に溶け込んでいくような不思議な感覚。万華鏡の中に迷い込んでしまった不思議の国のアリスというところでしょうか。ぐるぐる回って目が回る楽しさ、自分がどこにいるかわからなくなる浮遊感など、感覚のズレが面白い。

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 川島猛さんの説明では、この白黒のパターンは「人」を描いたそうだ。もちろん人そのものではなく、人のカオス(混沌)。顔や腕や足、笑っているところ、踊っているところ・・・いろんな有機的なものを抽象化して、それをモチーフにして表現しているという。そう言われると、この部屋の中で感じる温かさ、優しく包まれる感覚は、胎内の遠い記憶が意識の底から湧いてくるのかもしれない。白と黒の線だけの表現、と言葉で聞くともっとシャープな作品のような印象だけれど、思わず笑みが浮かぶ楽しい空間になっていました。

瀬戸内国際芸術祭2016
秋会期:10月8日(土)~11月6日(日)

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2016年10月23日 (日)

幽霊か,幻覚か、創造物か

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 異形の者たち、異界のものたち・・・平凡な日常に理性を超えた何かが入り込んだとき、私たちはどんな反応をするだろうか。戸惑い、おそれ、反発、攻撃。崇め奉って神にまつりあげるかもしれない。PARANOID ANDERSONSの作品「かくれんぼ」。木の枝やスポンジや布などで作った”妖精”が、森の中に19人かくれている、という作品。「みんなを見てけてあげてください」と書いてある。

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 この変わった名前のアーティストは造形を学んだ3人によるユニットだという。共同でオブジェを制作するのではなく、テーマを決めたら三者三様の解釈で作る。それらを木立の中や草原の上に配置して、面白こわい不思議なワンダーワールドを出現させた。スターウォーズで異星のクリーチャーたちが集まるカフェのような雰囲気かな。薄暗い時いきなり出会ったら腰を抜かしそう。

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 もうひとつ異世界を創造したのが、山本桂輔の「夢の人(眠る私)」。六甲ミーツアート2016のチラシの表紙にも使用されている。今年の代表的な作品の一つだろう。「眠る私」とタイトルにあるように、作家の夢の中の世界。意識あるいは無意識の投影。なんで大きな顔が横向きなの? ジャガイモのようだけど顔なの? なぜタンスが置いてあるの? そんなことはいくら考えても理解には至らない。

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 この世界が面白いか、何かインスピレーションをもらえるか。それが評価の基準でしょう。ひとつひとつのディテールに込められた思いは、とても深いと思う。しかし関係ないと思う人にはまるで面白くない。自己満足に終わるか、鑑賞に耐える作品に昇華するか、紙一重のところなのでしょうね。ファンタジックな作品、2点の紹介でした。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016
2016年9月14日(水)~11月23日(水・祝)

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2016年10月20日 (木)

石や陶器の立体作品が面白い

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 まるでゴジラのような存在感です。不気味な風貌に原初の強大なパワーを秘めた物質の塊、それが西條 茜の作品「root of cloud #1」。高さ2mあまりですが、それ以上に大きく見せる。地球規模のスケール感あふれる造形です。Photo 説明によると、六甲山系のすべての川を巡り、河口付近で集積した石を高温で焼成して制作したという。
 色もさまざま美しさも質感も多様な小石は、ひとつひとつ長い時間の中で削られ磨かれた地球の断片。そして、それぞれが独自の歴史と個性を持っているに違いない。それらがたくさん集まって、もっと大きなひとつの物語になる。壮大な神話、あるいは国家、あるいは宇宙。全体を構成する個と、集合してできたマッスでは、まったく異なる物語を紡ぐ。この作品の面白さは、そんなところにある。

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 もうひとつ面白かったのは、角倉起美の「紫陽花」。作者は六甲山で制作する陶芸家。アトリエのまわりにもたくさんのアジサイが咲くそうだ。作品は直径50cmから1mぐらいの半球状にカラフルな4枚の花弁がついたアジサイの花が5~6体、地面に並べてある。次々と色が変わるアジサイの美しさを、シンボリックにあでやかに表現している。自然にはないツヤやかな陶器だけれど、雨やほこりにうたれまわりの環境にすっかり溶け込んでいる。地面からアジサイの精が生えてきたおもむきだ。
 両作品とも六甲高山植物園に展示してある。展示というより、その地に固有の生命という雰囲気。まるで樹齢数百年の巨木のような風格を感じました。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016
2016年9月14日(水)~11月23日(水・祝)

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