伝説のマリア・カラス
絶頂期はわずか10年ほど。不摂生からか、ノドを酷使したからか、短い活動歴で声が出なくなり表舞台から引退したマリア・カラス。それでも史上最高のディーヴァと称えられ、後のオペラ歌手に大きな影響を与えたと言われている。オナシスとの私生活のことも含めて、日本の片田舎に住む子供の私でも名前を知っていたほどだったのだから、当時の人々に与えたインパクトは半端じゃなかったのでしょう。
その彼女の本当に貴重な映像がリマスター音声で鑑賞できるなんて、思ってもいなかった。1958年12月19日、パリ・オペラ座でのガラコンサート。バスティーユに新オペラ座ができる以前の、シャガールの天井画があるパレ・ガルニエでのライブ映像。カラスの歌はあまり録音状態のよくないLPやCDでしか聞いたことがなかったので、リマスター版のこの映画は必見です。で、元町映画館へ駆けつけました。
オペラ歌手は声に魅力があって歌がうまいのは当然だが、姿かたちの美しさや演技力を含めた表現力でどんな役作りをするかが問われる。カラスの場合はこの全身を使った表現力が傑出している。存在感が際立っている。映画の中の解説者は、「今夜、カラスは最高の歌手であるとともに、最高の女優であることを証明した」と述べていました。愛に苦悩する女、悲嘆にくれる女。彼女はノルマに、トスカに、魂を吹き込んだ。半世紀以上前の上演とは思えないリアリティで、われわれを鳥肌立たせた。
まさに万雷の拍手、喝采とはこのことか。天から授かった優雅でゴージャスな舞台姿。観る人すべてを惹きこむ迫真の演技力。この夜、彼女は伝説になったのだ。リマスター版とはいえ1950年代の録音技術だから、現代と比べるととても貧弱だ。しかもスタンダードサイズのモノクローム映像。それにもかかわらずこんなに感動的なのは、この日の舞台のクオリティがよっぽど高かったとしか思えない。歴史の一幕に立ち会ったようで幸せでした。
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