2015年12月26日 (土)

横尾忠則、「幻花」の挿絵展

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 幻花 幻想幻画譚。展覧会名に『幻』の文字が3つも入っている。横尾忠則現代美術館で開催中の展覧会です。これは1974~1975年に東京新聞に連載された瀬戸内晴美(寂聴)による時代小説「幻花」の挿絵を一挙に見せるおもしろい企画。貴重な原画全371点を展示している。新聞小説用なので、ヨコ14cmタテ8cmぐらいの小品だ。しかしその小さなスペースの中に、細密な線描で自由奔放にイメージをふくらませ、独特の横尾ワールドを展開。決して小ささを感じさせない。

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 ただし展示としては小品を整然と並べてもインパクトがない。いくら内容が濃密で完成度が高いといっても、広い美術館をもたせるのはむずかしい。だからポイントポイントに横幅4m以上の巨大な拡大版が配置されている。精緻な原画だから、こんなに拡大してもまったく粗く見えない。これも驚異的。むしろ原画では見逃しがちだった凝ったディテールまで見えてきて、さまざまな新しい発見があってとても楽しい。

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 小説は室町時代の後期、京の都が舞台。足利義正や日野富子などが登場する。天災や疫病、内乱が頻発するどろどろした人間関係、横尾さんの挿絵は、小説に従属するのではなく、対等に勝負してそれ自体が独立した世界を構築している。キリストやUFOも出てくる自在な表現。まさに幻想幻画、自らが「イラストレーションの総決算」と述べるだけあって、ほんとうに素晴らしい作品シリーズです。

横尾忠則 幻花 幻想幻画譚
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館
2015年12月12日(土)~2016年3月27日(日)

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2015年11月16日 (月)

大英博物館の100のモノ

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 人類の歴史、その文化遺産のなかでも第一級のコレクションを有する大英博物館。今回の展覧会は、約700万点におよぶ収蔵品から選ばれた100点を展示する。それらは200万年の歴史の、ほんの断片にすぎない。しかし、ひとつひとつに込められた創造のエネルギーと偉大な情熱に感動を覚える。
 大英博物館のお宝のひとつが「ロゼッタストーン」。そのレプリカが展示されていた。古代エジプトの神聖文字(ヒエログリフ)と民衆文字(デモティック)、ギリシャ文字で書かれた石碑の一部。まさに知の歴史の金字塔、言語学発展のシンボルです。19世紀半ばにこれが解読され、古代エジプトの文化や歴史が解明される大きな転機になった。まぁ大げさにほめたわりには地味ですが・・・。

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 知らなかったモノですごく感銘を受けたのが、「ウルのスタンダード」。4500年ほど前のメソポタミア文明が生んだ謎の箱です。何に使われたのかはわからないけれど、贅沢なモザイクが施された美しい箱。いまも鮮やかな色が残っているのは驚異的だ。ラピスラズリなどの鉱物が使われているそうだ。
 200万年前の石器から古代文明の名品、中世や近代、現代の希少品にいたるまで、ガラクタの山からよくぞ宝物を見つけ出したものだ、と感心する。博物館というのは、モノを見る目が問われている。40年前に何を見たかまったく思い出せないけれど、今回は世界第一級の目=大英博物館を感じました。収集する。研究する。展示する。博物館のグローバルスタンダードです。

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100のモノが語る世界の歴史
大英博物館展
2015年9月20日(日)~2016年1月11日(月・祝)

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2015年11月 9日 (月)

篠原奈美子のリスとウサギ

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 ピンク色のもごもごした物体! 波打つふさふさ! これは篠原奈美子の作品「Rainbow Risu」です。もったいぶった見せ方になりましたが、じつはFRP(繊維強化プラスチック)で作ったリスの彫刻。高さは2mあまりと巨大なリスで、しかも尾っぽを思い切りデフォルメしてデカくしているので、普通イメージするリスとは別物に見える。ピンクという色も、因幡の白うさぎじゃないけれど、皮をはぎ取られたようで妙に生々しい。いや、痛々しいと言ったほうが適切か。

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 尾のデフォルメに対し、顔や毛並はとてもリアル。そのアンバランスさが、可愛さを通り越して不気味な印象を与える。まるで100万年後の哺乳類のようです。つぶらな瞳は青や赤。「まぁ、リスってなんて可愛いの」、などといった類型的なモノの見方を冷たく拒絶しているかのよう。自分の眼でしっかり見なさい!とゲキを飛ばされている感じ。なにものも、なにごとも、固定観念を捨てまっさらな目で見てみると新たな発見や素晴らしい感動がある。いくつになっても教えられることばかりだ。

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 篠原のもう一つの作品がグランドホテル六甲スカイヴィラに展示してある。こちらはウサギ。作品名は「垂れ耳」。これも高さ150cmぐらいの巨大なウサギで、自慢の耳はなぜかダラリと垂れている。物憂げな眼、宇宙のかなたを凝視するかのように天を見上げた姿は、哲学者かそれとも故郷の月を見て悲しんでいる月からの使者か。私たちに身近なリスやウサギをモチーフに、奇妙な世界へ連れて行ってくれる篠原奈美子。新しいアートの可能性を感じました。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年11月 6日 (金)

噴水とベンチ、のような

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 六甲ガーデンテラスの見晴しスポットに噴水が。え、こんなところに噴水があったっけ? と近づいていくと、それは深尾尚子の作品「Fountain」でした。Photo_2 この鮮やかなブルーの噴水、そばで見るとビニールの散水ホースでできている。水を噴き上げる噴水が、水をまくホースでできている。
 関係ありそうでナンセンスなこのアイデア、どこかとぼけた味わいがある。意味とシンボル。本物とフェイク。クスッと笑えるこのアプローチ、もしかしたら人間の知覚に対する深~い洞察があるのかもしれない。あるいは、笑いの本質を形成する大きなファクターかもしれない。そう考えると、軽く笑い飛ばしてハイ終わり、とはいかなくなってきた。

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 六甲枝垂れの前庭には、ステキな色と質感のベンチが置いてある。いろんな大きさ、いろんな色に塗られた板切れを、たくさん貼り合せてできている。Photo_4 これらは森太三の「関係のベンチ」という作品。よく見ると、それぞれの板は角が取れたり色が剥げたり、長く使いこまれたような味わいがある。それぞれの木片に人間のぬくもりが感じられる。生活の断片、歴史の一コマが立ち上ってくる。そんな気がしてくる。
 これらはアート作品とはいえ、もちろんベンチだから座ることができる。そして座ればよりいっそう人間臭さが感じられる。ぜひゆっくり座って長い時間の流れや暮らしの記憶を、体験してみてください。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年10月25日 (日)

これが楽器だって!?

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 ストーンサークルのように7本の柱が建っている。岩の遺跡(?)を取り囲むように直径10mぐらいの円形に並んだ彫刻作品は、じつは楽器でもあるそうだ。弦楽器製作者の中川浩佑が六甲山上に作った「ヤマカゼボッチの弦楽器」という作品。これはエオリアンハープという弦楽器で、自然に吹く風により弦が鳴る仕組み。古代ギリシャ時代から存在したと言われる。「風流」っていう言葉はここから出た、というのはウソですが、見た目も美しく不思議な魅力、磁力、魔力にあふれている。
 音を奏でるアート作品、という新しさ。楽器という概念からかけ離れた姿とスケール、という驚き。うれしい出会いでした。

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 風が強い六甲山の自然環境を活かして、大掛かりかつ繊細な音の彫刻として制作された。それぞれ太さの違う7本の弦が張られ、スピーカーボックスのような縦長の大きな共鳴箱を持つ。Photo_8 音色は弦の太さと風速によって変化するそうだ。柱がさまざまな方向に向かって建っているのは、どちらから風が吹いてもどれかが受けられるから、ということだろう。大きさ、位置、向き、弦の太さ・・・綿密な調査を基に工夫を凝らして創作された現代のエオリアンハープ。
 残念ながらこの日は風がなく、古代ギリシャ以来の妙なる音は聞けなかった。予定の立てにくい、まさに風まかせの楽器なのでした。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年10月22日 (木)

三角形の謎の物体

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 池のそばになにやらシャープな塔が建っている。宇宙のかなたからやって来た未来的な物体? いやもしかしたら古代人が信仰のために作った遺跡? 高さ2mあまりの黒光りした三角形の塔。進藤篤さんのSFチックな作品「小さな塔」です。鉄とガラスでできた「小さな」アート作品ですが、存在感はすごく大きい。『2001年 宇宙の旅』のモノリスのように、世界の存在の秘密が隠されているような迫力がある。
 ある人は10の眼を持つ知的生命体だと言ったが、たしかに、モノではなく生命かもしれないと思えてくる。

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 はめ込まれた10枚のレンズ越しに、背景の池や木立が見える。世界を映しだしているのだ。もちろん天地はさかさま。同じ背景を映しているのだけれど、上のほうは空の部分が大きく、下へいくと池の面積が増える。同じ視点から見ると、上は見上げ、下は見下ろすわけだから、理屈で考えるとこういう見え方になるのは当然だ。でも、この10通りの見え方は理屈抜きに美しい。あぁ、これも一種のグラデーションなのだ。窓を区切ってレンズで像を結ぶ、映画の原理と同じだ。そうなんだけれど、あらためてムービーのおもしろさを分解してプレゼンテーションしてもらって、得した気分になりました。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年10月19日 (月)

斜面を転がり落ちるボール

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 芝生の斜面を転がり落ちる途中でストップモーションをかけられたような白木と黒塗りの2つの巨大な球体、と見えるアートはスガショウタロウ+SA の作品「Balls」。転がるエネルギーが満ちているのに、無理に止めている、その不安定さが動きを感じる所以でしょう。そしてこの球体の構造はバックミンスター・フラーのジオデシック・ドームを思わせる。作者のスガさんは建築家でもあるらしい。なるほど、そうなんですね。

Balls
 見る方向を変えると黒いボールは白いボールの影のようにも見える。転がってくる巨大ボールから逃げなきゃ、と妄想していると、バスター・キートンの映画を思い出した。タイトルは覚えてないが、無表情に、でも必死で逃げるキートンのおかしみ、そして観客の大爆笑。 こんな非日常の世界を創造し観客の価値観を揺さぶるのが、優れたアート作品の条件です。平面作品も、立体作品も、映像作品も、サプライズのないものは芸術ではない。ただ美しい、ただおもしろい、だけでは足りないのですね。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年10月16日 (金)

あっけらかん、瞬間芸アート

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 現代アートで「瞬間芸アート」とでも呼びたいジャンルがある。六甲ミーツ・アートの、たとえば北川純さんのこの作品。タイトルは「六甲おろし器」です。六甲山麓に住む私たちにとって、夏は涼しく、冬は厳しく、山から吹き降りてくる地域独特の風「六甲おろし」は暮らしや文化の必需品。阪神タイガースの応援歌でもおなじみですね。Photo_3 これをアーティストは「大根おろし器」によく似た巨大な「六甲おろし器」で創ろうとしたわけです。ま、これ以上の説明は不要でしょう。
 ちょうど観に行ったとき、作者の北川さんが脚立に上がって何やら作業中。聞けば強い風で「おろし器」のギザギザが取れてしまったので補修している、とのこと。おろして(削って)風を生み出す部分が、風にやられるとは。これもまた自然の中の野外展示だからこそでおもしろい。
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 池のそばに立つとぼけた表情のロバ。三宅信太郎の作品、「ドンキー」です。見ているうちにトロイの木馬のように見えてきた。ヨーロッパではバカやのろまの代名詞のロバですが、荷物を運んだり人を乗せたり、ずいぶん役に立ってきた歴史がある。でも、なぜ六甲山に?などと不審に思ったり、意味を考えたりするのはナンセンス。理屈を越えたところに存在するアート、存在そのものがおもしろいアートは、受け手の瞬発力が問われる。一呼吸置いたらつまらなくなりますよね。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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2015年10月13日 (火)

本田かな、「心の旅」展

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 本田かなさんの久しぶりの個展「心の旅」が、10月12日(祝)まで三重県名張市のセンサート・ギャラリーで開かれていた。写真を細い短冊状に切って、それをタテ糸ヨコ糸のように編んで作品に仕上げるアーティストです。編むことによって違うネガや部分を合成し、夢と現の境目にある不思議な風景を現出させる。

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   目の前の光景を見つめながら
   心の中をゆらゆら歩く。
   頭の中に描いた情景を思い出しながら
   ひとり静かに写真を編む。
   いつでも どこへでも 出発できる旅。

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 彼女自身がこう書くように、彼女の作品はありそうでない世界、なつかしいけど非現実的、まさに心の中の情景だ。写真でよくやる切り抜き合成ではなく、編んで合成するというとてつもなく手間のかかる手法だからこそ生まれる、奥行きと独特の質感が本田かなさんだけの世界観を増幅させる。

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 今回新たに取り組んだセルフポートレートのシリーズもなかなかおもしろい。1つの作品に2つのポーズがごくごく自然に溶け込んでいる。編み込んで合成するという手法が、なんでいままでやらなかったんだろう、と思うほどピッタリなのだ。風景、人物・・・。今後の展開にますます期待が高まる本田かなさんでした。

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2015年10月10日 (土)

作品名は「海、山へ行く」

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 「海、山へ行く」というタイトルを聞いて、どんな作品を想像されるでしょうか。月原麻友美が陶製のパーツで創造したアート世界は、六甲の山の上に海辺の世界が侵入したというおもむき。Photo_3フジツボのような、イソギンチャクのような、ヒトデのような、白い小さな物体が足元の草むらやせせらぎの中、岩の上からさらには高い樹の幹にまで、歩くにつれて無数に現れる。気にせずに歩いていると見過ごしてしまいそうなほど、周囲に溶け込んでいる。
 しかし一度気付くと、この不思議な光景は、小さな異物が平和な日常に入り込んだ時に感じる違和感が、だんだん成長し増殖してやがてコントロールできなくなる怖さに似ていると思う。海と山。人間とロボット。生物と無生物・・・。まったく別物と考えてきたものが、じつはそれほど差がないんじゃないのか。タイトルのおもしろさにひかれて注目した作品が、こんなことまで考えを深めてくれました。

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 もうひとつタイトルのおもしろさでは、「空の池」という作品もある。水草が生えた池に不定形の雲形の鏡(アルミかな)が浮かんでいる。Photo_4 そこに空や周りの景色が映り込んで、天と地の関係が逆転する仕掛けの作品だ。季節によって、天気によって、時間帯によって、見る角度によって、それはさまざまに変化して見飽きない。単純だけれどとてもおもしろい。環境と一体になって、しかも周囲の環境をより強く意識させる効果がある。韓国の趙さんというアーティストの作品です。
 ここで紹介した「海、山へ行く」と「空の池」。どちらもタイトルのおもしろさも抜群ですが、六甲山の自然の中でこそその美しさが生きるアート、という意味で素晴らしいと思いました。やはりアートは図録などで見るものではなく、その現場へ行って観る体験に価値があるのでしょうね。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2015
2015年9月12日(土)~11月23日(月・祝)

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