雲に乗った菩薩たち
平等院鳳凰堂の大修理の完成とともに新しく開館したミュージアム、『鳳翔館』が素晴らしい。平安時代の建造物が並ぶ境内に、すっきりしたモダンな建物がまわりの景観をジャマせず控えめに建っている。貴重な文化財を収蔵するための最新の機能を備えるためには、やはり木造ではなくコンクリートの構造体が必要だったのでしょう。最近の美術館は建築家の作品性が収蔵する作品より勝っている場合が多々見受けられるが、この建物はヘンに主張せず、しかしその端正なたたずまいはとても好感が持てる。
ここに展示されているのはどれも平等院の宝物だが、特に素晴らしいのが『雲中供養菩薩』と呼ばれる52体の仏像。いずれも雲に乗って笛や太鼓、琴や手風琴などの楽器を演奏したり、軽やかにステップを踏み羽衣をあやつりダンスを踊ったり、みんな喜びにあふれじつに楽しげだ。そんな菩薩像が本尊の阿弥陀如来座像を囲むように長押の上の壁面に飾られているのだ。
もともとは色鮮やかに彩色され、金箔も貼られた絢爛たる姿だったらしい。それが長い年月の間に剥落していき、生地の木目が見えたりするようになっている。まるで後世の詫び寂びの世界のようだが、決してそんなものではない。当時の華やかさは想像するしかないが、その生き生きした表情や躍動する肉体の美しさは、まるで近代彫刻のようだ。
この鳳翔館には本堂の内部壁面が原寸で復元された展示室もある。赤、青、緑・・・まさに極楽浄土とはこんなところだ、と当時の人々が考えたであろう姿で花や幾何学的なパターンが描かれている。そこに安置された金色に輝く阿弥陀如来座像とそれを取り巻く雲中供養菩薩。生きているうちに功徳を積んで、ぜひ浄土へ行きたいと藤原頼通ならずとも考えたに違いない。
大仏師定朝と彼の工房の仏師たちの作。西洋美術で言うルネサンス以降の人間主義を先取りしたような見事な出来栄え。作者の自由な感性とそれぞれの菩薩に対する親密な愛情まで感じられるじゃないですか。ギベルティやドナテッロに先行し、1,000年近く前にこんな名品が日本で生まれたことを誇りに思います。
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