役立たずのダムを取り壊せ
「小さい頃、自分で散らかしたものは、自分で片付けるように教えられる。それは私たちの“家”である地球に対しても言えるはずだ。破壊的ですぐ役立たなくなるダムを建てたのなら、それを片付け、自然を元通りにする責任が私たちにはあるはずだ」。これはドキュメンタリー映画『ダムネーション DAMNATION』の制作責任者でパタゴニアの創業者でもあるイヴォン・シュイナードの言葉です。
アメリカ全土につくられた7万5千基のダム。その多くは川を変貌させ、サケなどの魚を絶滅させた。しかも発電・灌漑・洪水防止の役割も、期待されたほどの効果は発揮できていない。むしろ高い維持費をかかって経済的にはマイナスのものも多い。そんな負の面ばかりのダムを「撤去」する選択が、アメリカでは現実になってきたそうだ。
上の画像はこの映画のチラシです。ハサミでダムを切り裂いているインパクトの強いビジュアル。じつは実写、デザイン処理ではありません。警備のゆるい深夜にアーティストがザイルで吊り下がって、ダムの壁面にペインティングしたもの。ほかにもでっかいひび割れをペインティングしたダムもある。ユーモアがあるでしょ。このあたりはアメリカ人の素晴らしいところ。巨費を投じたダムを壊すなんてクレージーだと馬鹿にされた時代から、何十年もかけてアーティストや生態学者、自然保護運動家たちが川の自由を求め続けて闘ってきた歴史があるのです。
このドキュメンタリーは、フランクリン・ルーズベルトがダム完成式で「国の発展と国民の幸せに役立つ」と称えた演説の映像や、ダムで働く人たち、水資源管理局のお役人など推進する立場のインタビューもたくさんはさんでいる。ただダムを壊せ!だけではない。そのキモは、一人一人の小さな努力でも、やがて大きな社会変革につながるエネルギーに結実することがある、という挑戦や行動のたいせつさを説くこと。「希望」がテーマなのだ。
日本でもダム、防潮堤、スーパー林道などたいして役に立たない公共工事が経済性を無視して作られ続けている。八ッ場ダムはそれでも作られるし、原発も止まらない。そこには官僚や政治家や工事業者などの利権がからんでいる。と言っても彼らはちっぽけな存在だ。もっともっと大きい、時代や個人の能力をはるかに超えた目に見えない力(それを『体制』と呼ぶのかもしれない)がドンと控えているので大変だ。でも、だまっていては後世に負の遺産を積み上げる体制をサポートすることになるのではないでしょうか。子や孫にたいする責任を果たすためにも、ダムネーションを観に行ったり、日本の川に自由な流れを取り戻すための署名運動に参加したり、行動を起こしましょう。
この映画でアメリカという国の偉大さ、アメリカ人の素晴らしさ、アメリカ社会の柔軟さを、あらためて思い知らされました。私たち日本人も負けてはいられない、と気が引き締まる思いで新開地の神戸アートヴィレッジセンターを出たのでありました。
DAMNATION ダムネーション
神戸アートヴィレッジセンター KAVC CINEMA
2015年1月24日(土)~2月6日(金)
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