北斎、お化けと花
葛飾北斎の作品で、今回おもしろいと思ったのが「百物語」というお化けのシリーズ。じつはこのころ(江戸後期)に文学や芝居の世界でも怪談ブームがあったそうです。とうぜん美術界でも。そして四谷怪談のお岩さんや番町皿屋敷のお菊など、その筋のスターも現れる。それらをどう調理したか、イマジネーションを駆使した北斎の腕の見せ所です。
お化けや妖怪は、どんな出現の仕方をするか、どんな姿に変形させるか、虚と実の兼ね合いでコワさが決まる。リアルでありながら飛躍した、ありそうでなさそうなサジ加減がたいせつだ。北斎の場合は提灯や蚊帳をうまく小道具に使ってリアリティを出している。しかもそれが構図をつくるうえでとても有効に働いている。すごい才能です。
しかも彼が描き出したお化けたち、コワいけれどどこか愛嬌があると思いませんか。この世の住人を離れても、まだ人間臭い欲望や妄執にとらえられ、望まれもしないのに(あるいは期待通りに)人間社会に現れては煙たがられる。そして夏の夜の暑さしのぎや子供の教育になくてはならない存在になっていった。そう考えると、おかしく哀れな姿だからこそのリアリティもあったように思われる。
コワイものだけじゃなく、美しい花を大胆な構図で描いたシリーズもなかなかの見もの。風に揺れるケシの花。シャクヤクにとまるカナリア。キキョウとトンボ。場面の切り取り方が秀逸だ。まるで35mmフィルムで、一眼レフカメラで、ググッと寄って行ったような構図なのだ。それまでの狩野派や琳派などではなかった新しい美学の発見。アップの魅力とトリミングの効果を最大限に発揮している。きっと同時代では世界最高峰のアーティストだったのは確かでしょうね。
神戸市立博物館
北斎 ボストン美術館 浮世絵名品展
2014年4月26日(土)~6月22日(日)
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