未発表のターナー
ターナー展の展示作品の中には、生前に発表されなかったものがいくつもある。それがどれもいいのだ。今回の展覧会で「いいな」と思った作品のうち、半分以上が未発表ないしは研究者によると未完とされているものだ。
この「湖に沈む夕陽」を含め、それらは200年近く後の私の目から見ると、とても素晴らしい。もちろんターナーは作品が(同時代に)評価され売れることを願って制作活動をしていた。だから、未発表作品は後から何か描きくわえて完成させようとしたのか、描いたものの時代の好みや芸術観からかけ離れ(進みすぎ?)ていて、自分の名声を傷つけることを恐れて発表しなかったのか。現代のように作家が自由に作品作りをできる時代の我々が、あれこれ言うのは間違いでしょう。でも、制作過程でどの時点を完成とするかは、今も変わらぬ難問です。
当時ロンドンは発展を続けるヨーロッパ最大の都市だった。工場が林立し大気汚染も進んでいた。蒸気機関車が走る風景も描いたターナーは、産業革命後の新技術や新しい景観も好きだったようだ。つまり科学と技術の進歩による人類や世界の明るい未来を信じていた。それにしてはこの煤煙でどんよりした「ウォータールー橋上流のテムズ川」という油彩画はどうでしょう。ここで描かれているのは決して明るい未来ではない。まさか彼が環境保護に目覚めたなんてことは時代的にもありえない。芸術家の直観でもって、あるいは新しい美意識で描いたけれど、これではとても売り物にはならないと思って、発表を控えたのでしょうか。今ではそれも謎です。
神戸市立博物館
ターナー展 ー英国最高の巨匠ー
2014年1月11日(土)~4月6日(日)
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