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2014年1月16日 (木)

ターナーの先進

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 神戸市立博物館で「ターナー展」がスタートしました。19世紀前半に活躍した英国の巨匠ターナーの油彩、水彩、スケッチなどロンドンのテート・ギャラリーが所蔵する113点を展示する展覧会。初期から晩年まで、幅広く網羅して見ごたえ十分です。
 なかでもおもしろかったのは「カラー・ビギニング(色彩のはじまり)」と呼ばれる、水彩で描かれた習作群。それらは展覧会に出品するつもりも人に見せるつもりもなく、ターナー自身が興味の赴くままに光や空気を表現するための実験(あるいは試行錯誤)の産物だ。
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 ディテールを描き込むよりも、眺望や大気の現象を一瞬でとらえるスピード感を重視したその制作態度は、きわめてモダンだ。本質を大きくつかむ大切さを教えてくれます。これは絵画は何を伝えられるか、という現代まで通じるアートの大きな命題を示している。若くしてロイヤルアカデミーの正会員となったターナーは、いわば伝統的権威の象徴です。そんな彼が後世の印象派やさらには抽象絵画を先取りしたような革新的な作品を数多く残したのは、ほんとうにすごいことだと思います。
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 でも注意したいのは、彼の作品は決して抽象画ではない、ということ。あいまいな輪郭で何が描かれたかわからない、と当時の評論家からもボロクソに批判されたけれど、それは彼が時代より数歩先へ進んでいただけ。でも美術界に抽象という概念はまだ生まれていなかったし、なにより彼は望んでいなかった。ここにお見せした作品も、上から「にわか雨」、「バス・ロック島」、「城」と、彼がつけたタイトルではないにせよ名付けられている。目に見える事象を極限まで単純化して、色彩と形態の構成で表現するとこうなったのでしょう。いまその後の美術の歴史を知る私たちから見れば、それこそターナーの先進性にほかならないとわかるのですが。

神戸市立博物館
ターナー展 ー英国最高の巨匠ー
2014年1月11日(土)~4月6日(日)

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