2012年12月10日 (月)

エル・グレコより宮永愛子

Photo
 エル・グレコ展を観に中之島の国立国際美術館に行ってきました。プラドでたくさんグレコの作品を観て来たばかりなので、同じようなテーマのものが多いなぁと感動はいまひとつ。でも400年前に作家の個性をこれだけ表現したということは、とてもすごいこと。まだ芸術という概念がない時代に、一足早く近代に踏み込んでいた感じがします。とはいうものの、エル・グレコは予想通りのおもしろさ、それ以上でも以下でもない、ちょっと平凡ないい展覧会という評価です。情報がいっぱいあふれるこの時代、昔の作品は損をしますね。教科書で見たことがある、テレビで見かけたぞ・・・ではビビッと電気が走る出会いの感動なんてありえません。「これがホンモノだ」と追体験するのみ。いいことなのか、悪いことなのか。
 だからおもしろいと感じるのは、どうしても現代作家の展覧会になります。この日も別のフロアでやっていた宮永愛子さんの展覧会が大当たり。宮永さんは虫除けに使うナフタリンで作品を作っている若手アーティストです。靴もビンも蝶も、あるかないか存在が希薄な半透明の結晶でできています。まるでセミの抜け殻のように。そしてナフタリンは常温で昇華するので、どんどんカタチが崩れ無くなっていく。キンモクセイの葉の葉脈だけを無数に集めて作った、巨大なタペストリーのような作品も興味深い。それらには絶対的なもの、不変のものなんてない、すべては時間とともに変化していくのだ、という哲学が感じられる。人類がつくりあげた文明が行き詰まり、未来に希望が見いだせない現代。静かではかないけれど深く心にしみる展覧会です。

国立国際美術館
宮永愛子 なかそら - 空中空 -
2012年10月13日(土)〜12月24日(月)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年11月19日 (月)

お祝いのお花

Photo
 美術館の展覧会でお祝いの花が届く、ということはあまりありませんが、今回は横尾さんの名前を冠した美術館のオープニング展だから特別なのでしょう。著名な方々から贈られたお花が、入り口を入ったところにいっぱい並べられていました。高倉健さん、坂本龍一さん、ユニクロの柳井正さんなどなど、お名前を見ながらどんなお付き合いをされているのか、無責任にミーハー的に想像するのも楽しいものです。Photo
 高倉健さんで思い出すのは、1960年代の後半に週刊プレイボーイ(たぶん)見開き2Pで見た作品。まさに時代の息吹を見事に切り取った横尾スタイル満開の1枚でした。このあと高倉健さんをモチーフに作品を作ったという話は聞いていない。もし健さんがそれ以来のお付き合いでお花を贈られたとしたなら、律儀なお人柄が感じられてとてもいい話じゃありませんか。同じシリーズで浅丘ルリ子さんをモチーフにした強烈なインパクトの作品もありました。画家宣言をされるずっと前のものです。今回の展覧会を機にそれらを思い返すと、横尾さんは昔から「ファインアート」と「商業美術」などという日本独特の不毛な分類をはるかに超越した存在だったと思います。オモシロイものはオモシロイ。美しいものは美しい。これがアートの本質だから、評論家などがごちゃごちゃ言うことはない。日本ではどんな分野でも派閥や家元制に代表されるように、意味なく小さく群れたがりますよね。それさえなければ住みやすい社会なんですが・・・。

Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館
開館記念展Ⅰ 横尾忠則展
反反復復反復

2012年11月3日(土)~2013年2月17日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年11月15日 (木)

祝 横尾忠則現代美術館オープン

Photo
 11月3日、兵庫県が生んだ世界的なアーティスト・横尾忠則さんの3,000点以上の作品と膨大なアーカイブ資料を収蔵する「横尾忠則現代美術館 Y+T MOCA」がオープンしました。王子公園、原田の森ギャラリーのとなり。つまり前の兵庫県立美術館・西館をリニューアルして誕生したもの。楽しみにしていた新美術館へさっそく行ってきました。
 開館記念は「横尾忠則展 反反復復反復」。懐かしの名作ピンクガールズ・シリーズから最近のY字路シリーズまで、同じモチーフを何度も何度も繰り返し描く(当然スタイルは時代ごとに変化している)ことによって、新作はもちろんのこと1960年代の作品までもが時代を超えて新たな輝きをおびてくる、こんな横尾さん独自の方法論をよく表している『反復』というタイトル。展示もそこにフォーカスした、とても面白い展覧会です。Photo_2チラシに「二度ある美は、三度ある」とありますが、繰り返すことによってその視点はますます深まり、私たち観客に大きな感動を与えてくれる。
 今回はほとんどが絵画でしたが、3,000点もの収蔵作品があるので、版画だけとかポスターだけとかテーマ別とか、まさにキュレーターの腕の見せ所。今後の企画展にもかなり期待できそうです。神戸に楽しみなアートスポットができて幸せです。皆さまもぜひどうぞ。

Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館
開館記念展Ⅰ 横尾忠則展
反反復復反復

2012年11月3日(土)~2013年2月17日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月24日 (水)

お楽しみ、ミュージアムグッズは?

Photo
 フェルメールにレンブラント、ルーベンス、フランス・ハルス、ヴァン・ダイクなど17世紀のオランダ・フランドル絵画の名作がずらり。イタリア・ルネサンス以来の西洋美術の伝統と少し趣を異にしています。画題も画風も王侯貴族や教会権威がパトロンになって生まれる美術とは違って、新興の商人、市民たちが好む自由や軽快さが反映されたのでしょうか。がんじがらめの決まり事から解放され、肩の力を抜いた伸びやかさが感じられます。こじんまりとなかなか好感が持てる展覧会でした。
 さて、おもしろい展覧会があると楽しみなのがミュージアムショップ。どんなアイデアのグッズがあるのだろう?とワクワクします。Photo図録やポストカードは当然あるとして、他では見られないその展覧会ならではのユニークなものを見つけると、オマケまでもらった気分で二重に幸せです。今回は?といえば、残念ながらオッと声を上げるグッズはありませんでした。「真珠の耳飾りの少女」に関心が集中しすぎたせいなのか、この絵の各種サイズ複製画がやたら目につきました。この絵が気に入ったからといって、ポスターを壁にピンで貼るのならともかく、10万円以上もする複製画を飾るなんて理解できません。こんなものを他人に見られたら恥だ、と私は思うのですが…。
 おっ、頑張ってるなと思ったのはミュージアムショップの空間構成。壁と柱をイエローとブルーで構成。そう、「真珠の耳飾りの少女」のキーになる色です。ま、良くも悪くもこのチョー有名絵画を見せる展覧会なのです。

神戸市立博物館
マウリッツハイス美術館展

2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月18日 (木)

六甲ミーツ・アート2012 その5

Photo_4
 緑の自然の中からポップな色彩が飛び出してくる。小山めぐみの作品「大自然の着ぐるみ」です。池のそばにそびえている松の幹に、カラフルな布が巻いてある。近づいてよく見ると、布ではなくて毛糸を編んだ編み物です。まるで松の木が手編みのセーターやマフラーを身に着けて、厳しい自然の中でけなげに生きているようで微笑ましい。「ひとがつくったモノでありながら、自然を感じさせる『編み物』を触媒にして、自然の体温を感じてください」と作者は言っています。絵本のなかでゾウさんがシャツを着たりキリンさんがマフラーをしたり、擬人化して見ると動物も木々も個性が際立って親しみを感じる。だからといってファッションに凝ったお犬さまはどうだろう? 小山さんが言う「自然の体温」より、むしろ「不自然の熱意」を感じてしまう。Photo_5
 違う色味のニットを着込んだもう一本の松の根もとには、これまたニットのキノコがいっぱい生えています。カタチといい色といい、キノコはこんなファンタジックな状況によくマッチしている。そこには毒があるかないかウマイかマズイかなどを超えた可愛さがあふれている。自然物と人工物、環境と文明。秋の晴天の下、ふしぎな魅力をたたえたあったかい作品でした。

六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2012

2012年9月15日(土)~11月25日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月15日 (月)

六甲ミーツ・アート2012 その4

Photo
 今年のミーツ・アート、目につく作品に「透明」でくくられるものが多い。視覚に訴えるのが美術なのに、透明=見えない作品というのはどういうことか。それは透明のヒモや向こうが透けるビニールを素材に多用している作品、ということです。ひところ鏡を使った作品が多かったですよね。鏡は実像と虚像を逆転したり、実際の風景の中に虚像をもぐりこませたりして、私たちの感覚を揺さぶる新しい見え方を提示しました。
 では透明(あるいは半透明)は何を表そうとしているのでしょうか。中川洋輔さんと藤原直矢さんという建築を専攻する二人が作った「霧がつくる輪郭」は、空間を透明なビニールひもで区切っただけの作品。建築とは空間を区切って別の空間を生み出す行為だと思いますが、この作品の場合は区切り方があいまいで、うっかりすると見逃しそうになる。でもそこには視覚的物理的な境界とは違って、実は精神的な境界とでも呼ぶべきものが存在する、そしてそれこそが建築空間を作る本質ではないか、と思わせる。もしかしたら作者は建築だけではなく、社会に様々な形で存在する差別や偏見を形作る「境界」も、ただ内と外を隔てる透明のヒモにすぎないと主張しているのかもしれない。Photo_3
 木村幸恵さんの「クリスタル・オーガン」は透明樹脂やテグスなどで作られている。階段や踊り場、廊下や室内まで使った巨大なインスタレーションです。何もないようでいて何かが幽霊のように存在している。存在しているけれど向こう側が透けて見える。見えるものこそが実態だ、思い込んでいる私たちの常識に挑戦してくる。たとえば地面を這うアリが2次元の認識しか持たないとすると、人間は時間を含めた4次元の認識を持つ。では5次元や6次元の認識を持つ生命体が私たちを見た場合、なんと幼稚ななんと進化の遅れた下等な生物、と思うかもしれない。つまり「透明」で視覚を超えたとんでもない高次の概念を表現しているのだ、と思う。見えない・・・それは存在しない、とは違って別種の世界を強く想像させる手段なのだ。

六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2012

2012年9月15日(土)~11月25日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月12日 (金)

フェルメールブルーの石を得る

Photo
 フェルメールが「青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)」や「牛乳を注ぐ女」などに使った美しいブルーは、ラピスラズリから作った絵具だという。そのラピスラズリを見るために、石コレクターの友人に誘われて京都みやこめっせ「石ふしぎ大発見展2012」にPhoto_2行ってきました。すごい数の出展業者!が中東や南米からも。 すごい数のお客さん!は老若男女さまざま。 よくもまぁ石好きがいるもんだ、と感心しながら会場を巡る。大まかに分けると業者にもジュエリー系、飾り石系、原石系、化石系の4つがありそうだ。とうぜんお客さんの好みが違うからでしょう。ネックレスになりそうなビビッドな色を探す人と、アンモナイトの化石を熱心に見る人は別世界の住人です。でも共通するのは、どれも地球の営みが生み出したまるで奇跡のような美しさ。あ、隕石のコーナーもありましたから地球外の宇宙の営みも。
 いままであまり興味はなかったのですが、見ているとはまってしまいそうな魅力がある。(気を付けなきゃ) さてラピスラズリですが、アフガニスタンの特産でフェルメールの時代はとても高価だったそうです。今は化学的に作り出した似たようなブルーの絵具があるようですが。そんな話を聞きながら見ていると、その石の青はますます深みを増して神の領域に入っていけそうな気がしてくる。やはり色を塗ったり染めたりしたものと、色そのものとは伝わる力が違う。で思わず買ってしまったのが、上の写真の石。コレクターの友人から「ラピスラズリは黄鉄鉱と一緒に産出するので、金色の筋や模様の気に入ったものを選ぶといいですよ」とアドバイスを受けてゲット! 見るだけのつもりが、最終日の終わり間際なので安くしてくれるというアフガン人(?)の商売上手に乗せられて、買ってしまいました。神戸市立博物館のチケット売り場に並ぶ人たちにも、見せてあげたい美しさです。

神戸市立博物館
マウリッツハイス美術館展

2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月 9日 (火)

六甲ミーツ・アート 2012 その3

Photo_3
 オルゴールミュージアムから六甲高山植物園に向かう通路沿いに、50m以上はあろうかという長さで作品は続く。木でできた大小さまざまな立方体が絡み合い、つながって、見る場所や角度によっていろんな表情を見せる。これは井口雄介さんの大作、「CUBe SCAPE 」。
 この作品を見ながら通路を行き来しつつ私が考えていたのは、人生って何だろう、ということ。木枠の一つ一つが日々の出来事や見た風景そして出会った人。それぞれの想い出は大きいのもあれば小さなものもある。それらがつながり重なり合って人生はできている、と。決してまっすぐではなく、曲がりくねったり横道にそれたり・・・でも着実に前へ進んでいる。(と思いたい) だから、今までどんな道筋をたどってきたのか、この先どこへ向かおうとしているのか、時々は立ち止まって眺める必要があるのではないでしょうか
 近頃おもしろいと感じるアートは、展示されている場と密接に結びついている作品が多い。この作品も当然ここでしかないカタチになっている。それは作品を持ち運べないことを意味している。つまり、作品のある場所に足を運ばなければ見られないのだ。「真珠の耳飾りの少女」や「モナリザ」は日本でも展示できるが、「最後の晩餐」や「システィーナ礼拝堂の壁画」は現地へ行くしかない。それに似ている。このことはアートの魅力の本質と所有の問題を考えさせます。

六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2012

2012年9月15日(土)~11月25日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年9月30日 (日)

六甲ミーツ・アート 2012 その2

Photo
 景観をぶっこわすほどインパクトが強いカラフルな立体作品。これは六甲山上の芸術散歩に展示されたひとつ。六甲オルゴールミュージアムの中庭の池に面した塀や板張り通路や地面を利用して展示されるタン・ルイ(TAN Ru YI )さんの「中庭の宙」です。マレーシア・クアラルンプール生まれの作家さんだけのことはある、このドギツイまでの色づかいはプラスチックにしか出せません。よく見るとすごい数の洗濯バサミ! 大きいのは布団をほすタイプです。濃い茶色の木製の塀と植物の緑・・・ナチュラルカラーの世界に突如割り込んできたチープな人工色のかたまり。これが意外なことに快いのです。Photo_2
 制作の素材となる洗濯バサミの色も日本人では表現しえないアジアンな美意識。見慣れた常識を壊し、新しい見方を与えるのが現代アートの役割だから、この彫刻は十分成功しているといえます。落ち着いた風景を一変させ、目と脳を強く刺激し、建築物の新しい意味を考えさせる。たとえば室内のインテリアでも落ち着いたナチュラルカラーで統一すると、無難に趣味のよい部屋が出来上がりますが、それだけでは何か物足りない。もっと刺激がほしくなる。
 日常と非日常。自然の美と人工の美。環境と文明。さまざまなことに思いをはせさせる作品でした。

六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2012

2012年9月15日(土)~11月25日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年9月24日 (月)

六甲ミーツ・アート 2012 その1

Photo
 9月15日から11月25日まで、今年も六甲山の山上各所で「六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2012」が開催されています。少し涼しくなってきたのでちょっと見に行ってきました。
 まず最初は、ポスターやチラシにも使われている加藤泉さんの木彫をご紹介しなくては。加藤さんはとても好きな作家さんの一人です。ヴェネツィアビエンナーレや国立国際美術館で油彩のタブローを見てすごく感動していたのですが、じつは彫刻作品は図版やネットの画像で見るのみで、実物はこれが初めて。(お恥ずかしい) Photo場所は六甲山高山植物園。緑の中に 5 作品( 6 あったかな?)がぽつぽつと展示されている。立体であることと木を粗く彫った質感があいまって、タブローよりずっとリアルというか生々しい生命力を表現している。リアルといっても加藤さん独自の抽象化された人間、あるいは生命体だ。いわば生も死も超越した根源的な生命=存在。
 そのうち全身の作品2点は草の上に横たわっている。目にした瞬間、死体か?とギョッとしたけれど、いやいやどうして力強いじゃないですか。よ~く見るとお腹から樹が生えている。もちろん樹が生えたのではなく、立っている樹に合わせて設置しているのだ。おさまった美術館ではなく自然の中の植物園ならではの効果的なアイデアと展示です。この生命体から新しい生命が樹というカタチをとって芽生えた、とも考えられるし、地球上の個々の生命体は大自然と一体なのだ、とも思索させる。またこんな自然の中に置かれたら木彫は風雨にさらされ、汚れたり腐ってきたり、そのうち朽ち果てるだろう。時間とともに変化していく様も、この作品のねらいなのでしょう。

六甲ミーツ・アート
芸術散歩 2012

2012年9月15日(土)~11月25日(日)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧