「生き抜く」を、ぜひ観てください
MBS毎日放送が制作したドキュメンタリー映画が素晴らしい。膨大な東日本大震災の記録映像を編集した作品です。宮城県・南三陸町を舞台に、あの津波から生き残った何人かの人と家族に焦点を当て、被災直後からその後の1年あまりの生活をコメントを交えずに淡々と記録する。もちろんどの人も肉親を亡くしています。でもその悲しみや苦しみを強調するのではなく、ましてや「希望を持って頑張ってください」なんて底の浅いコメントをつけたりしません。あえて記録者に徹している、そのスタンスが観る者を感動させる作品の力になっているのだと思います。
このことはドキュメンタリー作品の良し悪しを決める最大のポイントではないでしょうか。もちろん映画ですから監督もプロデューサーもいます。ただし彼らはこんな映画を作ろうと思って企画したわけではない。つまり作家が意図して作った作品ではない、だからこそ記録性(事実の重み)が際立って感じられる名作が生まれたのでしょう。考えてみてください。「これ、おもしろいでしょ」「ほら悲しいでしょ」と言われても、ちっとも笑えないし涙も出ない。ほっといてくれ!大きなお世話だ、と怒鳴りたくなるのが関の山。でも今、その手のお笑いやお涙ちょうだいが世の中に氾濫している。残念ながら。そんな作品や番組を作る作家やTVディレクターの個人的な資質の問題なのかもしれません。
幸いなるかなこの作品は、誰か個人の意図が反映されたものではありません。たぶんニュースや報道特集のためのもの。撮影したカメラマンも一人じゃない、放送記者も一人じゃない。いわばTV局の報道チームならではの制作システムと、作品ではなくニュースとして撮影された800時間ものストック映像を後から編集したからこそ生まれた名作。失礼な言い方をすればケガの功名のような生まれ方が、ドキュメンタリーの本質を見事に当てたのだと思います。
この作品はメジャーな劇場で上映するような種類の映画ではありません。でも細々ながら息長くいろんな場所で上映され続けることでしょう。ちょっと気にかけておいていただいて、機会があれば見逃さないよう。ホント、おすすめです。
生き抜く
南三陸町 人々の一年
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