奥脇さんのゼラチンシルバープリント
ゼラチンシルバープリントという言葉、耳にされたことはありませんか? ゼラチンシルバープリントとは日本では銀塩写真と呼ばれ、百数十年を経て完成された最高峰の写真表現技術です。ところが10年ほど前から急速に写真のデジタル化が進み、美しい諧調表現と独特の風合いが魅力のこの手法が失われようとしています。今回の展覧会で「奥脇孝一ゼラチンシルバープリント写真展」と、こだわる理由をお話ししましょう。
皆さまもデジカメやケータイで写真を撮り、デジタルプリントするのが今は普通になっているでしょ。ヘタするとプリントせずに、PCやビューアーで見るだけかもしれません。でもちょっと前までは、フィルムで撮って写真屋さんに出してプリントするのが当たり前。せいぜいスライドにして映すぐらい。ほかに方法がなかったですしね。
プロの写真家は現像技術や焼き付け(プリント)の加減を研究し、自分独自のスタイルでオリジナルプリントを作っていました。 暗室作業のノウハウの蓄積がモノを言う、いわば職人芸の世界。 同じネガでも焼きひとつで作品の印象がまったく変わる。いろんなメーカーの印画紙の特性も熟知していなけれないけない。当然、選ぶフィルムも撮影時の露光も、完成イメージに到達するための過程として逆算で決めていく。テーマの選び方は重要です。対象をどう切り取るかのセンスも大切です。そんな才能にプラス確たる技術の裏付けがあって始めて、いい作品が生まれる。いやあ奥が深い。
いつも奥深いモノクローム作品で私たちを感動させてくれる奥脇孝一さんが、 イタリア・パドヴァのオルト・ボタニコで撮影してこられた「ゲーテが見た植物園」展。すべてバライタ紙にゼラチンシルバープリントした20点を展示しています。ずいぶんデジタルの技術体系が進歩したけれど、表現手法としてまだハロゲン化銀の化学反応でイメージを定着させるゼラチンシルバープリントの深みまでには至っていない、とおっしゃいます。五百年を超える歴史がそこかしこに窺える世界最古の植物園を表現するには、正統的な銀塩写真がふさわしい、と。言葉で表現するのが難しいニュアンスや、数値には表れない微妙な差異を感じ取る人間の眼の優秀さを信じて作品を作る、
作家の良心と情熱を感じました。
理屈っぽい話をしてきましたが、まずは作品の現物をギャラリーPAXREXでご覧ください。百聞は一見にしかず、その素晴らしさは貧弱な言葉の説明やパソコンの画像データではとても伝えられないものですから。
ギャラリーPAXREX
ゲーテが見た植物園
奥脇孝一
ゼラチンシルバープリント写真展
3月27日(金)〜4月26日(日)
11時〜19時 水曜定休
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