居心地のよいデザイン
今年の初美術館詣は、天保山のサントリーミュージアム。ディーター・ラムスの時代ー機能主義デザイン再考というサブタイトルが付いた「純粋なる形象」展です。ドイツのブラウン社でデザイナー、ディレクターとして500を超える製品を世界に送り出して来たインダストリアルデザイン界の巨匠の、40年以上にわたる全仕事を概観する展覧会です。
日本でも愛用者が多いシェーバーを始め、オーディオ機器やコーヒーメーカー、目覚まし時計や電卓など懐かしいのに今見ても新鮮な製品の数々。実際に使っていたモノ、欲しくても手が出なかったモノ…その時代と自分の生活が思い出され、つい人に説明したくなる。そういえば、少々高くても何かと理由をつけてデザインのいいモノを買っていたよな。若い頃からシンプル & モダンの洗礼を受け、バウハウス以降の機能主義デザインが骨の髄まで染み込んだ我々の世代にとって、ラムスの展覧会は居心地のよい我が家に帰って来た気分です。
当時日本では「デザインでモノは売れない」という声を営業現場からよく聞きました。いまは「エコでモノは売れない」という声が。この人たちはデザインやエコを、製品を売るための上っ面の飾りと勘違いしているのでしょうね。それぞれの製品が持つ本質的な価値や奥深い思想を見ていない。だから、逆にデザインのためのデザインが幅を利かせるようにもなる。
その頃に比べると日本製品のデザインを取り巻く環境も、ずいぶんよくなって来ました。喜多俊之さんの液晶テレビAQUOSとか、深澤直人さんの±0の加湿器とか、世界に誇れるモノが生まれています。我々消費者の意識が高まった結果でもあるし、それがまた消費の選択肢を増やし、いいモノを手に入れることができる。この好循環が続けばうれしいですね。毎日の暮らしがゆたかなります。
ところで、この展覧会のポスターや図録『 Less and More 』の写真は、奥脇孝一さんが撮影されたもの。さすが、モノクロームのHANAシリーズで素晴らしい表現世界を創られている奥脇さんならでは美しさ。ミニマルで静謐なたたずまいが、ラムスのデザイン哲学を雄弁に表現しています。800ページにも及ぶこの図録、じっくりディテールを見ていると使い勝手の良さや素材感覚の見事さなど、学ぶことがいっぱいあって「デザインとは何なのか」が分かってきます。
サントリーミュージアム[天保山]
ディーター・ラムスの時代ー
機能主義デザイン再考
「純粋なる形象」
〜2009年1月25日(日)まで
月曜休館
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コメント
デザインとはなにか...
すべてです。といいたいところですが
まず デザインありきー
はたまた デザインとは?
今年も 悩みます故 そだてたいただきたく
よろしくお願いを申し上げます
投稿: ron | 2009年1月 7日 (水) 16時55分
ラムスは製造現場に密着した企業内デザイナーの良い面を100%発揮しています。
では悪い面は、どのように克服したのだろう?
経営者の意識と理解力が高かったのでしょうね。これが日本では一番問題だったりして
今年も、いろいろ面白い情報教えてください。
投稿: ひろパパ→ronさんへ | 2009年1月 7日 (水) 21時39分
私も見に行って来ました
もちろん図録も買いました
とても良い内容でいつまでも
じ〜〜〜っと見てました
投稿: 三木写真舘 | 2009年1月21日 (水) 00時10分
この展覧会は、思い出や憧れがいっぱい詰まっていて、私たちの世代には特にウケがいいようです。
三木さんはもっとお若いですよね)
(あっ、失礼
たかが電気製品とはいえ、愛や平和や希望を語っていた意識と同列にブラウンのデザインがあったと思います。
いま見てもその輝きが失われていないのはスゴいです。
投稿: ひろパパ→三木写真館さま | 2009年1月21日 (水) 17時56分