ヴェネツィア・レースの島
ヴェネツィア本島からヴァポレットに乗って一時間余り、ブラーノ島というかわいい小さな島。私がそこを訪れたのは今から10年も前、当時レース作りの講座に通っていたこともあって、是非ともその島にある世界最古のレース学校(SCUOLA MERLETTI DI BURANO)を見てみたかったのです。
冬真っ只中、底冷えのする、歴史が刻まれた古い建物の中で,シニョーラたちがせっせと手元を動かしている。節くれ立った指から紡ぎだされるそのレースを目にした時、私は息を呑みました。私の作っているレースと、技法は確かに似ているんだけど、何て細い糸! 何て繊細なその作業! ここから発信されたレースが、ヨーロッパの高貴な女性の身を飾り、そしてまたその技術が様々な形を取り、国境を越えてなお女達へと伝わっていったのです。
果ては今、東洋の女が1人、そのレースの魔力に吸い寄せられてここに。
それから五年後、関西のデパートで開かれたイタリア・フェアで、1人のイタリア人女性と出会いました。彼女の名前はクリスティーナ、何と、あのブラーノ島のレース学校のマエストラ! レース販売のデモンストレーションのために来日したのです。彼女の膝に広げられたレースを見たとき、懐かしさが込み上げました。「あらあ、あなたレース学校に来てくれたの? うれしいわ。私達、年取っても頑張ってるのよ。でももう後を継ぐものは居ないわ」。ちょっと寂しげにそう話す彼女ですが、ヴェネツィアという、世界に類をみない都市に生まれ、そこに根付く文化を愛し、肩肘張ることも無く淡々と仕事を続けている・・・。そんな彼女からプレゼントされた私の宝物、見事なランプ・シェード。こんな貴重なものをいただくわけには・・・。「いいえ、価値の分かるあなただから、差し上げるのよ」。
そう言ってくれたクリスティーナ。優しい光にいつもあなたの面影を重ねます。
さて、この歴史ある町に脈々と受け継がれていく素晴らしき美とアート。次回は世界的なイベント、ヴェネツィア・ビエンナーレに出展された時の丸山貴央さんの「FIORI」達をご紹介します。
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