2015年8月28日 (金)

もっともっと暗い闇のY字路

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 過剰と拡散と異次元。横尾作品の特長は、ありとあらゆるモチーフが散りばめられ、それらが化学融合しスパークし、画面に見えていないモノまで見せてくれるところにある。現実には描かれていない世界まで、観る者を連れていく。たとえば観客自身の心の奥い記憶の中の世界。そんな横尾さんが2010年から2011年にかけて連作した「黒いY字路」シリーズがおもしろい。それもこれまでとは異質なおもしろさ。
 暗い中にうっすらぼんやり、なにかあるかないかの境い目でY字路が描かれている。これはまた、どうしたことか。絵に対する考え方が大きく変わったのか、それとも他に理由が?

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 理由はよくわからないが、これらは今までとはまったく違うアプローチだ。「見えないものまで見せる」絵画から、「見えるものも見えなくする」絵画へ。ご本人はある種の実験と言っておられるが。見えないとよけい熱心に見てしまうのが、人間の性。心霊写真に写ったもやもやしたものを何とか理解しようとする態度に似て、わたしたちは目を凝らす。これらを展示する3階の部屋は、照明をずいぶん落としているのも、作者の意図をくんでのことでしょう。
 そして黒いY字路シリーズの後半には、Y字路の前面に泰西名画の静物画のような果物がごろごろと置かれている作品が続く。はて? これでまた私たち観客をとまどわせるのか。なんかよくわからないけれど、不思議なおもしろさがある。いや、正確に言うと気になって気になってしかたない、もどかしい気分にさせられるのだ。

開館3周年記念展
横尾忠則 続・Y字路
2015年8月8日(土)~11月23日(月・祝)
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館

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2015年8月25日 (火)

ヨーロッパへ進出したY字路

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 故郷の西脇市で始まり、那智勝浦や下田、広島や湯村温泉など日本各地で展開していたY字路が、ヨーロッパへも進出しました。石畳のY字路やCafeの看板、ちょっと乾いた空気。日本の、それも土俗的な情念を感じる表現が多かった横尾さんだが、じつは西洋近代主義の影響は極めて大きい。とうぜん明治以降のそういう教育を受けてきた世代だし、刺激的な展覧会も欧米のものが多かったはずだ。骨格は西洋で、血肉は日本固有のもの。そんなところでしょうか。だからヨーロッパでY字路に向かい合っても不思議でもなんでもない。むしろ近代合理主義のかたまりのような場所で、近代以前の土着の文化がにおってくるところが横尾さんらしくていい。

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 一つ興味深い絵があった。『農道時間』と題された段ボールに油彩、スプレー塗料で描かれた索引です。180×240cmの大作だ。
 Y字路の前で祈るミレーの晩鐘の農夫。その周りをステンシルで描かれた十六体の骸骨が取り巻く。骸骨のそばには名札が。ポール・セザンヌ、ホアン・ミロ、ジョルジョ・キリコ、マン・レイ、ルネ・マグリット、M・デュシャン、パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、マックス・エルンスト、アンディ・ウォーホール、マックス・ベックマン、フランシス・ピカビア、マーク・ロスコ、P・クレー。これらは横尾が敬愛するアーティストたちの愛しい骸骨なのでしょう。そして西洋近代美術の延長線上に自分のアートがあることの表明でしょうか。

開館3周年記念展
横尾忠則 続・Y字路
2015年8月8日(土)~11月23日(月・祝)
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館

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2015年8月22日 (土)

Y字路で、イメージの宝探し

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  Y字路シリーズに限らず、横尾忠則さんの作品にはいろんなイメージの断片がいっぱい描き込まれている。そして、画面に見える断片の裏から湧き上がってくる観客個々人の記憶、あるいはイマジネーションのゆたかさによって、その作品の評価は大きく変わる。「うまい!」が評価基準からいちばん遠いアーティストなのだ。観た人にとっては「おもしろい!」か、「つまらない」かしかない。それも「おもしろい!」の中身は千差万別。つまり一つの作品が、一万人の観客との共作によって一万点の作品となって世の中に存在する、ということだ。

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 これは映画や音楽の含め、あらゆるアート作品に言えることだが、これだけ恣意的に作品を作っているアーティストはほとんどいないでしょう。作品タイトルを『無題 Untitled』として、作者の意思を押し付けませんから自由に観てください、という作品も多い。「こんなの作りましたけど、よかったら見てください(いい作品かどうか私はわかりませんけれど)」。これではちょっと無責任だと私は思う。横尾作品がこれらと本質的に違うのは、観客が自分自身の記憶や想像の世界へ入り込むスイッチを、そこら中にいっぱい用意している点だ。だから私たちは砂山で宝探しに夢中になる子供のように、スイッチを探し求め自分だけの世界へ浸る。

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 人間の不思議、脳の神秘、物質的な肉体を超越した精神世界を信じている人にしか描けないアート作品だ。右か左かパキッと別れるT字路ではなく、少しの違いに見えた道が、先に行けばまったく異次元の宇宙にまで迷い込んでしまいそうなY字路。
 このシリーズから魔性の闇も日常のすぐ隣り合わせにあることを知る。生と死も隣り合わせ。知らないから、といって恐れることはない。人生は(あるいは死後の世界も)とても興味深くておもしろい。そんな気がしてきました。

開館3周年記念展
横尾忠則 続・Y字路
2015年8月8日(土)~11月23日(月・祝)
Y+T MOCA 横尾忠則現代美術館

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