2021年5月12日 (水)

小さな一歩、偉大な跳躍

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 That's one small step for (a) man, one giant leap for mankind. 「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な跳躍である」。 アポロ11号で月へ向かい、1969年7月20日、月面に最初の一歩をしるしたニール・アームストロングの言葉です。あれから半世紀、歴史的偉業の裏に隠された苦悩と葛藤とは?

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 デイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング主演。あの『ラ・ラ・ランド』を成功させたコンビによる『ファースト・マン』。静かな中にも緊迫感があふれるいい映画です。1961年、ロケット噴射の実験機 X-15で姿勢制御装置のテスト飛行をするニールの顔アップから始まります。超高速、超高度、凄まじいGに顔をゆがめ失神寸前。

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 宇宙開発競争で旧ソ連に先を越されたアメリカ。当時のケネディ大統領は国の威信をかけて10年以内での有人月面着陸をぶち上げる。それからジョンソン、ニクソンと大統領が変われども進められる計画。しかし技術の停滞や死亡事故。議会からも国民からも、税金のムダ遣いだと責められる日々。ソ連や中国とは違うのだ。
 
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 ちゃっちい感じの操縦席や宇宙服やNASAの管制室が、ジェミニ、アポロと進んでいくにしたがってどんどん進化していく様子が上手く表現されている。マニュアルからオート、さらにコンピューター化へ。デザインもレトロから近未来へ。それにつれて技術の信頼性もアップしていく。とは言え人類初のミッションなので死は覚悟の上。

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 この映画が素晴らしいのは、ニール・アームストロングの英雄伝ではなく、彼の深い悲しみの物語として描いているところ。幼い娘の死。小さな棺。同僚たちの相次ぐ死。寡黙なニールだからこそ、抱え込む心の痛みはより深く沈潜する。静かなクライマックスは生命の気配がない月世界でよみがえる亡き者たちのイメージ。

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 チャゼル監督との名コンビ、ジャスティン・ハーウィッツの音楽がまたまた素晴らしい。宇宙開発モノでは「勝利と栄光」がお決まり路線ですが、この作品では「喪失と孤独」。この難しいテーマを音楽面で見事に支えている。冒頭で流れるピーター、ポール&マリーの 500マイルで一気に引き込まれ、最後まで堪能できました。

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2021年5月 7日 (金)

丸山太郎を知っていますか?

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 いま松本の信毎メディアガーデンの OPEN 3周年記念で、クラフトのまち 松本の原点『丸山太郎 展』が開催されている。ビルの壁面に掛けられたタテ幕で見たとき、一瞬コーヒーの丸山健太郎さんかと見間違えました(大変失礼いたしました)。じつは松本民藝館を一人で作り上げた人だという。そうなんだ、そりゃあ見なきゃ! 

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 サブタイトルに「クラフトのまち 松本の原点」とあるように、松本民芸家具や松本クラフトフェアなど街の道筋を指し示した功績はとても大きい。老舗商家の長男として家業を継ぐかたわら、骨董品の収集をしていた丸山。昭和11年に開館した日本民藝館に出会い、華美な骨董ではなく身の回りの美しい道具を求めるようになる。

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 その関係から生まれた柳宗悦や棟方志功をはじめ民藝運動の人々との幅広い交流。そこからコレクターだけじゃなく、自ら作り手としても旺盛な活動に励む、もう一人の丸山が誕生する。版画や墨絵や水彩画に絵手紙。素朴だけれど味わいのあるモチーフの絵を描いて、みんなを幸せにする多くの作品。愛らしい

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 いまでも松本の街では「女鳥羽そば」や「ちきりや民芸店」の紙袋や包装紙や箸袋などで、丸山の作品が使われている。多くの人に愛された愉快でかわいらしい動物や風景や季節の風物詩。あくまで趣味のようなフリをした軽妙な画業。一見の価値があると思います。ちなみに展覧会場のビルは伊東豊雄さんの設計です。


クラフトのまち 松本の原点
丸山太郎 展
2021年4月28日(水)~5月30日(日)
信毎メディアガーデン

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2021年5月 1日 (土)

ウッディ・アレンの夢物語

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 ハリウッドの脚本家ギルが遭遇した、天に舞い上がるほどうれしいタイムトリップ。ウッディ・アレン監督・脚本の『ミッドナイト・イン・パリ』は大人のファンタジーです。自分をギルに置き換えて、純粋に自身の願望だけで作った魔法のような作品。アート好き、文学好きにはたまらない魅力がいっぱい散りばめられています。

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 婚約者とその両親とともにパリに滞在中。彼は憧れのパリに住み小説家として生きたいと願っている。婚約者は「脚本家で売れているのだからいいじゃないの、パサディナに住むことに決めているのだし」と、パリなど眼中にない。彼女とお金持ちの両親は、文化や歴史には無関心。西海岸の軽薄さが嫌いなアレンらしい設定。

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 ある夜ディナーのあと迷子になっている時に、停まったクルマに乗せられてパーティに連れていかれるギル。誘ったのはフィッツジェラルドとゼルダの夫婦⁉ そこで紹介されるのはヘミングウェイ⁉ ピアノの弾き語りで歌っているのは、なんとコール・ポーター⁉ 理由は分からないけれど、1920年代にタイムスリップしたようだ。

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 ギルは書いている小説をヘミングウェイに読んでくれるよう頼む、勇気を出して。それは断られるが、ガートルード・スタインのサロンへ連れていってくれる。そこで会ったのはピカソと愛人のアドリアナ。有頂天になった彼は毎夜0時のタイムトリップに出かけては、ダリ、ルイス・ブニュエル、マン・レイ、T.S.エリオットらと親交を結ぶ。

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 妖艶な美女アドリアナと親しくなったギルは、いっしょに1880年代のベルエポックへ。ムーランルージュでカンカンを見てロートレックやドガやゴーギャンと会話を楽しむ。夢見心地の彼女はもう1920年代には戻りたくないと言い出す始末。そういやぁロートレックやゴーギャンはルネサンスに生まれたかったと言っていた。

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 みんな昔のほうが良かったと思ってる? たんなる懐古趣味? でも人物も出来事も昔のことはすでに知識として知っているから上手くやれる、と思うのではないでしょうか。自分も歴史の一部になったような気分で。ギルが書いている小説の主人公も骨董道具屋だ。古き良き時代とキラ星のような才能へのあこがれと敬意。

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 雨のパリが美しい。夜のパリが美しい。アンバー気味の映像も、しっとりとした情感を醸し出している。さて夢のような体験に心震わせるギルは、魔法の世界から無事に戻れるでしょうか。ハリウッドの脚本家をやめ小説家となって本物の創造をしたい男の物語が、アカデミー脚本賞を獲得したのというのも洒落が利いていますね。なおポスターに使われているゴッホには会っていません。

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